後十字靭帯断裂の症状と治療法について医師が詳しく解説

後十字靭帯(PCL: Posterior Cruciate Ligament)は、膝の中央部に位置し、大腿骨と脛骨を結びつける重要な靭帯です。PCLは膝の安定性を保ち、過度な後方移動を防ぐ役割を果たします。PCLが断裂すると、膝の安定性が失われ、日常生活やスポーツ活動に大きな支障をきたします。本記事では、後十字靭帯断裂の症状と治療法について詳しく解説します。

 

 

後十字靭帯断裂の症状

急性の症状

  1. 膝の痛み: PCL断裂の最も一般的な症状は、膝の深部に感じる痛みです。特に負傷直後は、痛みが激しくなることがあります。
  2. 腫れ: 怪我をした後、膝が腫れることがあります。腫れは通常、24時間以内にピークに達します。
  3. 不安定感: 膝が不安定になる感じがすることがあります。特に階段を下りる時や、膝に負荷がかかる動作をする際に感じることが多いです。

 

慢性の症状

  1. 持続的な痛み: 時間が経つにつれて、痛みが持続する場合があります。特に運動後や長時間歩いた後に痛みが増すことがあります。
  2. 可動域の制限: 膝の可動域が制限されることがあります。膝を完全に伸ばす、または曲げることが困難になる場合があります。
  3. 筋力の低下: 膝周囲の筋肉が弱くなることがあり、これが膝のさらなる不安定感につながることがあります。

 

後十字靭帯断裂の原因

PCL断裂の主な原因は、強い外力が膝に加わることです。具体的には、以下のような状況が考えられます:

  1. 交通事故: ダッシュボードに膝を強く打ち付けると、PCLが断裂することがあります。
  2. スポーツ傷害: サッカー、ラグビー、スキーなどのスポーツで、膝に直接的な衝撃が加わることで断裂することがあります。
  3. 転倒: 膝を曲げた状態で転倒した場合にも、PCLが断裂することがあります。

 

後十字靭帯断裂の診断

  1. 問診と視診: まず、医師は患者の症状や負傷の状況について詳しく問診します。次に、膝の腫れや変形を視診します。
  2. 徒手検査: 膝の安定性を評価するために、後方引き出しテストやラックマンテストなどの徒手検査が行われます。
  3. 画像検査: X線やMRIを使用して、PCLの断裂を確認します。MRIは特に靭帯の損傷を詳細に確認するために有効です。

 

後十字靭帯断裂の治療法

保存療法

  1. 休息とアイシング: 初期治療として、膝を休め、アイシングを行います。腫れや痛みを軽減するために、1日数回、各回20分程度のアイシングが推奨されます。
  2. 圧迫と挙上: 圧迫バンドや包帯を使用して膝を圧迫し、腫れを抑えます。また、膝を心臓より高く挙げることで、腫れを減少させることができます。
  3. 理学療法: 筋力強化と可動域改善のためのリハビリテーションが行われます。理学療法士の指導の下で、膝の安定性を回復させるための運動療法が行われます。

 

手術療法

保存療法で症状が改善しない場合や、競技復帰を希望する場合は、手術が検討されます。

  1. PCL再建術: 自家腱(患者自身の腱)や人工靭帯を用いてPCLを再建します。手術は通常、関節鏡を用いて行われます。
  2. 術後リハビリテーション: 手術後は、段階的にリハビリテーションを行います。術後数週間は膝を固定し、その後徐々に可動域を拡大し、筋力を回復させるための運動を行います。

 

予防と管理

  1. 適切なトレーニング: 膝周囲の筋肉を強化し、柔軟性を保つことで、PCL断裂のリスクを減少させることができます。
  2. 適切な装具の使用: スポーツ活動中に膝サポーターやブレースを使用することで、膝の安定性を保ち、怪我のリスクを軽減します。
  3. 早期治療: 膝に痛みや不安定感を感じた場合は、早期に医師の診察を受けることが重要です。早期治療によって、症状の悪化を防ぐことができます。

 

 

まとめ

後十字靭帯断裂は、膝の安定性に重大な影響を与える怪我です。早期の診断と適切な治療が、回復を促進し、日常生活やスポーツ活動への復帰を助けます。痛みや不安定感を感じた場合は、すぐに専門医の診察を受けることをお勧めします。理学療法と手術療法を組み合わせることで、多くの患者が再び活発な生活を取り戻すことができるでしょう。

 

監修:医師 津田康史