脳梗塞の後遺症“しびれ”の原因とは?生活への影響とその治療方法について医師が解説します。

脳梗塞後に起こる症状のひとつ“しびれ”。

起きている間に常に続くしびれは不快な感覚であるにも関わらず目に見える症状ではないため、不快感や苦痛について理解されにくいことで悩んでいる方も多いのが実情です。

 

痛みとしびれは混同されやすい症状でもあり、はっきり痺れだけを感じる場合もあれば、痛みなのかしびれなのか分からない、といったケースも存在するでしょう。

 

まず前提としてしびれが起きる根本的な原因は、“感覚神経の通り道のどこかに問題がある”からです。

今回は、脳梗塞後遺症のしびれについて解説していきます。

 

脳梗塞でしびれが起きる原因

人は何かに触れたとき、「触覚受容器」と呼ばれる皮膚のセンサーを通じてその感覚を感じ取ります。

 

その感覚は化学信号へと変わって感覚神経を介して脊髄を通り、さらに脳の「視床(ししょう)」と呼ばれる中継点を通過して「体性感覚野」と呼ばれる部分に到達します。

最終的にこの体性感覚野で情報を受け取ることで、“どんな感触なのか”を正しく認識することが出来る、というメカニズムになっているのです。

この一連の通り道は「感覚伝導路」と呼ばれます。

 

皮膚に何の問題がない場合でも、さらに感覚神経が正しく情報を脳に届けたとしても、脳梗塞によって脳の一部である視床や体性感覚野、脳内の感覚伝導路が障害を受けると情報を正しく認識することができません。

そのため何も触ってはいないはずなのに、ビリビリ、ジンジン、ジリジリとした感覚がずっと続いたり、物に触れたりするたびにビリビリ感が強くて不快になるといった「しびれ」が起きるのです。

 

そして右の脳が左の手足の感覚、左の脳が右の手足の感覚をそれぞれ担当していますから、

 

  • 右の脳梗塞・脳出血の場合:左の手足
  • 左の脳梗塞・脳出血の場合:右の手足

 

にしびれが起きる可能性があるということになります(顔面の場合は同側に起こります)。

 

大きな動脈の脳梗塞であれば感覚野への影響は免れませんし、視床は出血しやすい部位としても知られており、脳内出血の中の30%ほどを占めます。

脳梗塞や脳出血によるしびれは比較的よくある症状ということですね。

 

逆にいえば梗塞の範囲が広い・あるいは複数の梗塞部位があったとしても体性感覚野や視床、感覚伝導路が影響を受けていない場合しびれは出現しない、といえるでしょう。

 

また脳梗塞発症の直後は痺れが起きていたとしても、治療や経過によって血流が再開し脳の機能が回復し諸症状が軽くなっていくにつれ、しびれの程度も軽くなったり消失したりするケースも珍しくありません。

 

生活への影響

しびれがあると日常生活にも問題が出てきます。

しびれが出現している部位によってもどのような場面で支障が出るかが変わってきますが、以下に一例をまとめます。

 

しびれによって生活で困る具体例

食事:箸やスプーンを握っても落としたり、食べ物をうまく掴めなかったりする

口周りがしびれていて動かしづらく、唇や舌を噛んでしまう

着替え:服の脱ぎ着で洋服が手足に触れるとビリビリ感じ、毎回不快な思いをする

調理:包丁などが握りにくく慎重になるため、調理に時間がかかる

巧緻動作:指先がしびれて細かい手作業がしづらい

書字:ペンを持つ感覚が分かりにくく、たびたび握り直したり、字がうまく書けない

歩行:足の裏がしびれて感覚が分かりにくくなり、歩きづらい・転びやすくなる

手すりがないと階段の上り下りが不安

睡眠:手足のしびれが気になり落ち着いて眠れない

社会生活:物が食べづらいため外食を控えるようになる

口がしびれて会話しづらいため、人前で話すことや人付き合いが億劫になる

寒い日はしびれをより強く感じるため、外出を控える

その他:介助で触れられるたびジンジンするため苦痛

 

見てみると、日常生活動作ができなくなるというわけではないものの、労力や時間がかかる・安全性に問題が出てくる・もともとの習慣を控えるようになるといった不都合さが目立つのが分かります。

 

慢性的なしびれは心理的負担が強くなる

また日常生活全般ありとあらゆる場面で不便さが出てくるので、必然的に生活の満足度は下がっていきます。人によっては「なんとも表現しがたい感覚で、これが一生続くかと思うだけで気分がどんよりしてくる」という声も上がるほどです。

 

何をするにもしびれ・あるいはしびれを伴う痛みが気になり生活そのもののモチベーションが下がっていく、生活範囲が狭まるといったことが問題の中核になるでしょう。そのため落ち込みがひどくなったり、以前よりも内向的になったりといった心理面にも影響を及ぼすのがしびれの特徴ともいえます。

 

しびれの治療方法

現在までしびれに対して確立された治療方法はほとんど存在せず、しびれに伴う痛みや落ち込みに対する投薬、などの対症療法が主でした。

 

しかし2022年に長崎大学の生命医科学域(保健学系)、および畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターによって開発された「しびれ同調TENS」と呼ばれる特殊な電気刺激を使った治療法が、一部医療機関にて提供され始めています。

まだ一般的な治療法ではなくしびれ同調TENSを使える医療機関も限られてはいますが、この電気刺激療法と従来の対症療法についてみていきましょう。

 

しびれ同調TENS(同調経皮的電気神経刺激)

そもそも「TENS」というのは低周波治療器のひとつで、医療現場では痛み・しびれの軽減などに一般的に用いられてきたものですが、しびれについての改善効果については乏しいものでした。

そのTENSを改良したものが、このしびれ同調TENSになります。

具体的には、実際に起きているしびれの感覚と同じような強さ・周波数に変え「同調」させて電気刺激を流すという方法ですが、なぜしびれが改善するのか詳しい原理は解明されていません。

 

開発当初は脊髄損傷患者を対象とした研究でしたが、その後脳卒中患者に対する研究も行われ効果が実証されています。

電気刺激を行っている最中だけでなく、翌日以降も治療効果が続く・しびれ以外の感覚障害も改善するという特徴があり、しびれの新たなリハビリテーション法として注目されています。しびれに悩んでいる方・いろんな民間療法を試しても効果が無かったという方には朗報といえますが、前述のとおり全国に普及されている治療法ではないため、対応できる医療機関が限られているのがネックですね。

 

薬物療法

薬を使った治療法です。しびれに対して軽減を目的として処方される場合もあれば、しびれを伴う痛みを軽くして生活しやすくなるように・また気分の落ち込みを軽くするために選択されることがあります。

末梢神経からくるしびれにはビタミン剤が有効な場合がありますが、脳梗塞後遺症でのしびれについてはビタミン剤の効果も含め薬の効果そのものが実証されていないので注意が必要です。

 

鎮痛薬

痛み止めです。しびれと痛みが混在しているときに使用されることがあります。

 

抗うつ薬

しびれにより落ち込み状態(抑うつ状態)が強くなり、日常生活に支障が出ている場合に用いることがあります。

 

漢方薬

手足のしびれ・舌のしびれなど部位によって異なる漢方が処方されます。

 

温熱療法

気温が下がったり手足が冷たくなるとしびれが強くなるケースが多いことから、温浴やホットパックなどを使った温熱療法も存在します。

しびれを伴う痛みについては改善がみられる場合も多いようですが、しびれそのものに対する効果は人によりけりで、効果が持続するわけでもないので身体が冷えてしびれが気になる時の対処法程度に留めておくのがよいでしょう。

 

リハビリテーション

リハビリテーション場面ではマッサージや、前述したTENSという電気治療を使用したしびれへの介入がなされる場面があります。

マッサージについては筋肉がほぐれ血行がよくなることで、温熱療法と同じように痛みについては改善がみられることがあります。TENSについても同様ですが、しびれへの効果には乏しいのが実情です。

 

 

まとめ

脳梗塞になると、“生活が可能なかぎり自立して行えるように”といった部分は着目され積極的に介入が行われる一方で、しびれやしびれによって起こる生活の質の低下についてはあまりケアされていないのが実情です。

今後、治療メカニズムが解明されることでしびれの体系的な治療法の展開を期待したいところですね。

 

また、幹細胞などを利用した再生医療は、脳梗塞の予防の分野で効果が認められている治療方法です。

まだまだ研究や治験が継続されている状況ですが、幹細胞などの再生医療は現在でも実際の治療にも使われている治療方法。今後はますます身近な治療として発展していくことでしょう。この機会に再生医療へ関心を持っていただき、知識として身につけるほか、実際に治療を検討していただければ幸いです。

 

表参道ヘレネクリニックでは体に負担のかからない再生医療を得意としており、いきなり治療に踏み出せない方の為にも事前カウンセリングを実施しています。

 

「気にはなるけど、 本当に今から予防が必要か判断できない」 「治療するか決まっていないけど、 まずは話を聞いてみたい」 そんな場合も全く問題ありません。気付かないうちに生死をさまようリスクを抱えている場合もございますので、ぜひ一度お気軽にお問合せくださいませ。

 

・お問合せフォーム(LINE・We Chat・メール対応):https://stemcells.jp/contact/

【再生医療外来】 03-3400-2277

 

監修:医師 津田康史