人工関節手術とは変形性膝関節症や関節リウマチ、あるいは外傷によって傷んで変形した関節の表面を取り除いて、人工関節に置き換える手術です。
肩、肘、手指、膝、足と様々な関節に対して行われます。
その中でも人工膝関節置換術は膝関節を人工関節に置き換える手術のことであり、今回はこの人工膝関節置換術について説明していきます。
目次
■人工関節とは
人工関節は、関節の滑らかな動きを再現できるように、大腿骨部(だいたいこつぶ)・脛骨部(けいこつぶ)・膝蓋骨部(しつがいこつぶ)の3つの部分からできています。
大腿骨部と脛骨部の本体は金属製ですが、脛骨部の上面と膝蓋骨の表面は耐久性に優れた硬いポリエチレンでできていて、これが軟骨の代わりになります。
人工関節は1800年代後半よりセルロイド、銀、亜鉛、象牙、関節包膜などを使用して試みが開始され、1950年代に金属を用いた人工関節の臨床応用が本格的に開始されました。
使用する人工関節は障害の程度によって異なります。
障害の程度が比較的軽い場合は骨の表面だけを削って置き換えますが、膝関節の破壊が進み、障害が著しい場合には、すり減った骨を補充するために複雑な膝関節部品が必要になります。
開発当初は短期間で人工関節が壊れることがありましたが、現在では長期耐用可能な金属、ポリエチレン、セラミックなどで構成されており長期的に使用が可能になってきています。
■人工膝関節置換術の流れ
人工膝関節置換術は疾患のある膝関節から骨の損傷部を取り除き、代わりの人工関節を固定する流れで実施していきます。
膝関節全体を人工関節に置き換える全置換術に対し、部分置換術は、膝関節の傷んでいる側だけを人工関節に置き換えるもので、関節の片側の軟骨のみがすり減っていて反対側のすり減りが少ない場合など、傷みの進行が比較的初期の方が対象になります。
部分置換術では通常の人工関節に比べ約半分の大きさの人工関節を用いるため、一般的に皮膚の切開や骨の切除量が少なくなります。
全ての患者さんが適応になるわけではないですが、近年では、傷をなるべく小さくして患者さんの体にかかる負担を少しでも軽くしようとする最小侵襲(しんしゅう)術を行うこともあります。
手術の方法も徐々に進歩しており、筋肉を切らずに温存するといった方法で、患者さんにやさしい手術の実現を図っています。
■人工膝関節置換術適応の目安
人工膝関節置換術の対象となるのは、変形関節症や関節リウマチで、関節が破壊され、不安定である場合や拘縮を伴い日常生活に障害を持った患者さんです。
部分置換の場合には以下のような条件も考慮する必要があります。
・膝をしっかりのばすことができる
・O脚やX脚の程度が軽い
・膝の内側もしくは外側のみが痛い
・関節リウマチではない
・高度の肥満ではない
・膝の靭帯には異常がない
人工関節の長期使用が可能となったことで最近では高齢者のみならず比較的若い世代に対しても適応が拡大しています。
部分置換術は、患者さんの容態や症状によっては行えない場合があります。人工膝関節部分置換術を希望される場合には、適応や効果、リスクについて、担当の医師と十分に話し合う必要があります。
■人工膝関節置換術の統計データ
人工膝関節置換術は日本国内で40年以上前から行われている手術です。
整形外科では一般的な治療法として定着し、手術件数は年々増えており、今では年間9万例以上にも上ります。また、術後15年以上の長期使用でも90%を超える安定した成功率が報告されており、国内でも手術件数は右肩上がりで増えています。
また、厚生労働省の公開データによれば、人工膝関節置換術を受けられる患者さんの平均年齢は75歳と、比較的高齢の方が手術を受けられています。
※厚生労働省第4回NDBオープンデータ(レセプト情報・特定健診等情報データベース)
平成29年4月-平成30年3月診療分
■人工膝関節置換術の効果と合併症
人工膝関節置換術は、膝関節内の痛んだ部分を取り除き、高度に障害された関節表面を金属やポリエチレンなどの人工物で置き換えることによって、関節機能を回復させる手術です。
人工関節に置換することにより膝の痛みの軽減と関節機能の改善に効果が期待できます。
また、手術後早期から疼痛が消失して、歩行がスムーズになります。筋力や動作スピードの改善が認められ、生活の質が飛躍的に向上します。関節可動域も日常生活に不自由のない範囲の動きが獲得できます。
術後の合併症として、感染症、深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症、骨折などが発生することがありますが、基本的に安全な手術であり、高い有効性が期待できます。
是非、主治医とご相談のうえ、人工膝関節置換術の恩恵を享受してください。
※記事に加えて日本人工関節学会の文章(人工関節とは | 日本人工関節学会 (jsra.info))を参考にしております。
監修:医師 津田康史