膝の裏側に違和感を覚えたり、ひざ下が特にむくんだりして悩んでいませんか?これらの症状が起こったときは、リンパの流れに問題があるかもしれません。
今回は、膝周辺の不快な症状の原因・治療法まで、詳しく解説していきます。
目次
「膝の裏側の腫れや痛み」はどのような状態?
膝の裏が目立つようにボコっと膨らんでいる場合は、膝関節の滑液が後方に押し出されているのが原因かもしれません。最初は腫れやしこりが目立つといった具合ですが、サイズが大きくなるにつれ近くの神経を圧迫し、痛みが生じる場合があります。
また、さまざまな原因によりリンパ液の流れが阻害され循環障害を起こした場合、ひざ下のむくみなどが目立つことがあります。
具体的な疾患や症状
以下に、具体的な疾患や症状を紹介していきます。自分に近い症状はどれか照らし合わせてみましょう。
ベーカー嚢腫(膝窩嚢腫:しつかのうしゅ)
関節包の中にある滑液が溜まりすぎてしまい、関節包が後方に膨らんで“しこり”のような見た目を形成する腫瘤のことです。膝裏がやたらとボコっとしていて気になるといった場合、一番先に疑うべき症状でしょう。
なぜ膝の裏側が腫れるのか
関節包は、骨と骨がつながる関節を覆う袋のような組織です。イメージとしては、関節を包む柔らかい風船のようなものと考えてください。その中には滑液と呼ばれる関節を保護するための液体が入っています。
膝の炎症を起こすと膝の保護のために滑液が過剰に生み出されます。関節包は風船のように柔らかい組織なので、中身の滑液がたくさんになるとそのぶん膨らみます。
前方には膝蓋骨があるので構造上膨らめませんが、後方は腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)と半膜様筋(太もも裏の筋肉)の間に小さな隙間があるなどして膨らむ余裕があります。また後ろ側は特に伸びやすい構造になっているため、自然と後ろ側に膨らみしこりのような見た目を呈する、というわけですね。
ベーカー嚢腫になりやすいケース
関節リウマチや変形性膝関節症、半月板損傷などの既存の疾患がある場合に併発することがあります。膝を酷使する人も同様です。
特に関節リウマチの場合は国内・国外の研究ともに合併率が非常に高いとされていて、半数近くにベーカー嚢腫が確認されたとの報告があります。
嚢腫があるからといって必ずしも膝裏のしこりや違和感・痛みが出現するわけではないので、気づかないまま生活しているケースもあるでしょう。
治療法
安静にして滑液が溜まるのを抑えるか、抗炎症薬などを使って痛みなどを抑えるのが基本的なアプローチとなります。
嚢腫が大きく症状が強い場合などは関節穿刺(せんし)といって、針で余分な滑液を排出することもあります。症状を繰り返す場合などには手術を選択される場合があるでしょう。
変形性膝関節症
変形性膝関節症は膝の軟骨がすり減って、骨と骨がこすれ合う状態になる病気です。
初期症状として、膝の痛みやこわばり・腫れなどが現れます。進行すると膝を曲げ伸ばしする際の痛みが強くなり、最終的に立つだけでも痛くなることで歩行が難しくなる例もあります。
なぜひざ下のむくみ・痛みを起こすのか
また、軟骨の摩耗や炎症により関節内に余分な滑液が産生されて、これが膝全体・特に膝の裏側に溜まることでむくみや痛みを引き起こします。上記のベーカー嚢腫と何が違うのかという部分ですが、ベーカー嚢腫は「関節包」内に滑液が溜まって引き起こされ、変形性膝関節症では関節包の中の更に内側の「関節腔」内に滑液が溜まることがあります。
いわゆる関節に「水が溜まっている」と一般的に言われるのは後者のほうですね。
膝を伸ばした状態で膝蓋骨を押さえるとプクプクと下に沈み込むので、セルフチェックでも分かりやすいです。
また、関節の不安定性により、歩行時などに膝裏の筋肉や靭帯に過度の負担がかかり、痛みの原因となることもあります。さらに、炎症による血流やリンパの循環障害が、ひざ下のむくみを引き起こす要因となります。
変形性膝関節症になりやすいケース
リスク因子には、高齢、肥満、過去の膝の怪我などがあります。ただ疫学調査では40代以上の半数近くが有している(男性:42.6%、女性:62.4%)という報告もなされており、決して珍しい病気ではありません。
さらに毎年全人口の2~3%の人が新たに変形性膝関節症を発症すると言われているため、どんな人でもなり得る可能性があるということを理解しておくと良いでしょう。
治療法
運動療法(筋トレやストレッチ)、体重管理などを含めた生活指導、物理療法(ホットパックで温めたり、アイスパックで冷やしたりなど)が基本となります。
水が溜まっている場合は、関節穿刺を選択される場合もありますが滑液が過剰に産生される原因を取り除かない限り、一時的な処置に過ぎません。
歩けないなど症状が重い場合は、手術を選択するケースもあります。
深部静脈血栓症
脚の深部にある静脈内に血栓(血の塊)ができる病気です。
飛行機などで長時間同じ姿勢を強いられ脚に血栓ができ、ときには血栓が肺まで飛んでいってしまうといった「エコノミークラス症候群」という名称は一般的に知られているでしょう。しかし何も深部静脈血栓症は飛行機に限った話ではありませんし、必ずしも肺に飛んでいくわけではない、ということは念頭に置きましょう。
症状として脚のむくみ、痛み、発赤、熱感などが現れます。また、脚に出来ている血栓が肺の血管に流れ込んだ状態では「肺塞栓症」となり息苦しさが出現し、命の危険があります。
なぜひざ下のむくみ・痛みを起こすのか
深部静脈血栓症では、血栓により静脈の血流が阻害されます。これにより、血液が脚に滞留し、ひざ下を中心としたむくみが生じます(下肢全体のむくみとして目立つことも珍しくありません)。また、血栓による炎症反応や圧迫が、膝裏を含む脚全体の痛みの原因となります。また膝窩静脈(膝の裏を通る主要な静脈)に血栓ができた場合、膝裏の痛みが顕著になることがあります。
深部静脈血栓症を起こしやすいケース
長時間の同じ姿勢、手術後の安静、肥満などがリスク因子となります。
また、心不全など血液の循環不全、つまり血の巡りが悪い状態でもなりやすいです。
治療法
診断には超音波(エコー)検査やCT検査などが用いられ、治療には抗凝固薬の投与が主に行われます。いわゆる血液サラサラのお薬ですね。手術が行われることは稀です。
リンパ浮腫
リンパ浮腫は、リンパ液の排出障害によって組織に液体が溜まる状態です。
軽度のむくみから始まりますが、進行すると著しい腫れや皮膚が硬くなる現象が起こります。
なぜひざ下のむくみ・痛みを起こすのか
特に重力の影響を受けやすい下肢にむくみが生じやすいからということと、リンパの構造の影響です。下肢のリンパ管は、足首から膝、そして足の付け根の部分へと上行します。リンパ流の障害が生じると、最も末梢である足首やふくらはぎなど、ひざ下の部分からリンパ液が貯留し始めます。ただリンパ浮腫の場合も、太もも部分までむくみが目立つようになることも少なくありません。
また、むくみによる組織の圧迫や炎症反応が、膝裏を含む脚全体の痛みや不快感の原因となります。
リンパ浮腫を起こしやすいケース
原因には、がん治療でのリンパ節切除、放射線治療、感染症などがあります。
上記の深部静脈血栓症でも血栓がリンパ管を圧迫したりして、直接的なリンパ浮腫の原因になることがあります。
治療法
リンパの流れを良くするリンパドレナージ、圧迫療法(弾性ストッキングなどを使って圧迫する)、筋肉のポンプ作用を用いてむくみを減らすための運動療法などがあります。
まとめ
膝の裏側の腫れや痛み、膝下のむくみは滑液の影響であったりリンパ系統の問題を含む様々な要因で引き起こされます。筋トレや鎮痛剤などでは、対処できない場合もあります。症状が重篤な場合や長期化する場合は、膝のケアのために何が最適かを一緒に考えてもらうことも大切ですので、速やかに専門機関を受診しましょう。