ランニングは手軽に日常に取り入れやすい人気のスポーツです。しかし、適切な方法でランニングを行わないと膝に負担をかけやすいことから、「ランナー膝」と呼ばれる症状に悩まされている例も少なくありません。
「ランナー膝」といってもランニングによる膝の痛みには複数の疾患が関係しています。その中でも特に注目すべきなのが「膝蓋軟骨軟化症」です。
今回は膝蓋軟骨軟化症を中心に、ランナー膝の様々な症状について詳しく解説します。原因や治療法・予防策まで、ランニングを楽しむ全ての方に役立つ情報をお届けしますので、ぜひチェックしてみてください。
目次
膝蓋軟骨軟化症とは?
膝蓋軟骨軟化症は、膝蓋骨(膝のお皿)の裏側にある膝蓋軟骨が柔らかくなったり、変性したりする症状を指します。
裏側とはいっても大腿骨と膝蓋骨に挟まれているため、位置的には膝の前面になります。
症状
主要な症状は膝の痛みや腫れ・違和感になります。
痛み
特に膝蓋骨の周辺や真下に痛みを起こしやすいです。最初は運動時や運動後のみ痛みを感じますが、進行してくると日常生活でも痛みを感じるようになります。
また膝を曲げ伸ばしする際に、膝の内部でザラザラとした感覚や軽い引っかかり感を覚えることがあります。これは軟化した軟骨表面の凹凸によるものです。
日常生活場面では、深くしゃがみ込む動作で膝の前面に痛みを感じます。また、しゃがんだ状態から立ち上がる動作は最も軟骨に圧力がかかるため、この際に痛みを感じる例が多いでしょう。
また、階段を降りる時にも軟骨に負担がかかり、膝の前面に鋭い痛みを感じることがあります。さらにしばらく座った状態から立ち上がろうとする時も同じように膝に痛みを生じやすいです。長時間座っていると一時的に軟骨への潤滑が不十分になる・つまり保護の役割を果たす滑液が軟骨へ十分に行き届かないため、と理解しておくとよいでしょう。
腫れ(関節水腫)
膝蓋骨の周辺が軽く腫れることがあります。この腫れは、炎症を起こして赤く腫れるというよりは軟骨の損傷に伴う滑液(関節液)が生み出される量が多くなるためで、「水が溜まる」という言い方が正確でしょう。
また関節水腫が進行してくると違和感が更に増したり、関節内の圧力が上がることで膝全体の痛みを感じるようになったりすることもあります。
膝蓋軟骨軟化症の原因
ランニングの際、膝には体重の約2~3倍近くの力がかかると言われています。この負担が着地の度に繰り返されることで、膝蓋骨裏の軟骨にダメージが蓄積されるのが原因です。
ただし、普通にランニングをしているだけで膝蓋軟骨軟化症になる可能性が高くなるとはいえません。以下のいくつかの要因で、発症リスクが高まるという点を押さえておきましょう。
トレーニング量の急激な増加
急激なトレーニング量の増加などでも、膝蓋軟骨軟化症の発症リスクを高めます。例えば、週に1回5kmしか走っていなかった人が、突然週3回10kmに増やすような場合です。膝蓋骨裏の軟骨に過度の負担がかかり、軟化や変性の原因となります。
軟骨は、適度な負荷に対して適応する能力を持っています。徐々に負荷を増やすことは問題ありません。時間をかけて負荷を大きくする場合には軟骨は少しずつ強くなり、より大きな負荷に耐えられるようになります。
身体構造上の問題
Q角(大腿四頭筋と膝蓋腱のなす角度)が大きい人は、膝蓋骨が外側に引っ張られやすく、軟骨への負担が偏りやすくなります。
また、足のアーチ(土踏まずの部分)のタイプも発症リスクに関係します。扁平足(平らな足)のケースなどではランニング時に足の内側に過度の負担がかかり、膝の位置関係に悪影響を与え結果として膝蓋軟骨に不均等な圧力がかかりやすくなるからです。
これらの解剖学的な要因は生まれつきのものも多いですが、適切なシューズの選択や、場合によってはインソール(中敷き)の使用で改善できることもあります。
筋力バランスの問題
膝の健康を保つためには、もともと強い筋肉を更に強化するよりも弱い筋肉を強くするように全体のバランスを考えてプランを練るほうが良いでしょう。
特に膝蓋軟骨軟化症の場合、大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)と殿筋(お尻の筋肉)のバランスが重要です。
例えば、大腿四頭筋が強すぎて臀筋が弱い場合にはランニング時に膝が前に出すぎてしまい、膝蓋骨(膝のお皿)に過度の圧力がかかります。これが軟骨の軟化や変性を引き起こす一因となります。
また、大腿四頭筋の一部である内側広筋の弱さについても膝蓋軟骨軟化症の原因となることがあります。内側広筋が弱いと膝蓋骨が柔軟に動かず、軟骨への圧力が不均等になりやすいからです。
体幹筋力も重要です。体幹が弱いとランニング中の体のバランスが崩れやすくなり、結果として膝に余計な負担がかかり膝蓋軟骨へのストレスが増大します。
広義のランナー膝
前述のとおり、「ランナー膝」そのものは特定の一つの疾患を指す言葉ではありません。ランニングによって引き起こされる、または悪化する複数の膝の症状を総称して「ランナー膝」と呼んでいます。膝蓋軟骨軟化症以外にランナー膝と呼ばれる症状は以下の通りです。
腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)
最も一般的に「ランナー膝」と呼ばれる疾患です。膝の外側が痛くなることが多いです。
膝蓋大腿痛症候群(しつがいだいたいつうしょうこうぐん)
膝蓋骨周囲の痛みを特徴とし、ランナー膝の一種として扱われることがあります。
膝蓋腱炎(しつがいけんえん)
ジャンパー膝とも呼ばれますが、ランナーにも多く見られます。膝のお皿の下に膝蓋腱が付着しているため、膝の下側に痛みが出ることが多くなります。
鵞足炎(がそくえん)
膝の内側に痛みを感じる症状で、ランナー膝の一種とされることがあります。
半月板損傷(はんげつばんそんしょう)
ランニングによって悪化することがあり、ランナー膝の一種として扱われることがあります。
それぞれ異なる特徴を持っていますが、どれもランニングによって引き起こされたり悪化したりする可能性があります。
膝蓋軟骨軟化症の診断
各種画像診断を用いて評価します。MRI検査では、軟骨の状態を非侵襲的に評価できます。軟骨の厚さや信号強度の変化で軟化を判断します。超音波検査では軟骨の厚さや表面の凹凸を評価できます。
また関節鏡検査で直接軟骨を観察し、Outerbridge分類と呼ばれる0~4のグレードを用いて損傷状態を評価することもあります。
膝蓋軟骨軟化症の治療
膝蓋軟骨軟化症の初期から中期段階では、この保存療法が第一選択となるでしょう。
膝を休ませる
急性期には2〜3日間は膝を休ませ、痛みを伴う動作は避けましょう。完全に安静にする必要はなく、日常生活で移動する程度であれば問題はない場合が多いです。
痛みが落ち着いてきた場合には徐々に活動量を増やしていきますが、痛みが出るような激しい運動は控えます。概ね2〜4週間程度の期間が必要ですが、症状の程度により異なります。
リハビリテーション
リハビリテーションは、軟骨の負担軽減を目的として行います。膝蓋軟骨軟化症の場合、ストレッチや筋トレを組み合わせて効果的に筋肉を強化していきましょう。
大腿四頭筋のストレッチングは膝蓋骨周辺の柔軟性を高めます。
内側広筋の強化も行い膝蓋骨の適切な動きをサポートしつつ、殿筋のトレーニングも並行して膝への負担を軽減し、全体的な下肢のバランスを改善しましょう。体幹の筋力強化も重要になってきます。
リハビリテーションを受ける段階というのはそもそも症状が出現している場合が大半かと思いますので、自己流で行い痛みを悪化させないよう、必ず専門家の監督のもとトレーニングを実施しましょう。
薬物療法
炎症や痛みを抑えるため、鎮痛薬やヒアルロン酸注射を行うことがあります。
手術
膝蓋軟骨軟化症の多くは保存療法で改善しますが、症状が重度の場合や保存療法で十分な効果が得られない場合には手術療法が検討されます。
関節鏡手術
最も一般的な手術方法です。小さな切開から内視鏡を挿入し、損傷した軟骨の処置を行います。具体的には損傷した軟骨を取り除き、軟骨表面を滑らかにしたり軟骨下の骨に小さな穴を開け、新しい軟骨様組織の形成を促します。
再生医療
手術が選択できない場合でも、軟骨再生が出来る治療法として注目されている最新医療です。
自家軟骨細胞移植
患者自身の健康な軟骨から細胞を採取し、採取した細胞を培養して増やす方法です。増やした細胞を損傷部位に移植します。
幹細胞療法
骨髄や脂肪組織から採取した幹細胞を利用する治療法で、軟骨細胞への分化を促進。損傷部位に注入または移植すると新しい軟骨組織を形成することができる点が注目されています。
多血小板血漿(PRP)療法
患者自身の血液から濃縮した血小板を抽出する方法です。成長因子を豊富に含むPRPを損傷部位に注入し、軟骨の劣化速度を抑えて修復を促進させます。
その他の対策
生活習慣や膝に負担をかけやすいランニングにも注意を払う必要があります。
体重コントロール
過剰な体重は膝への負担を増加させます。健康的な食事と適度な運動で適正体重を維持しましょう。
水分補給
適切な水分補給は関節の潤滑にも重要ですので、こまめに水分補給を行うようにします。
適切なシューズ選び
ランニングシューズは膝への衝撃を吸収する重要な役割を果たします。足幅やアーチの高さに合ったシューズを選びましょう。適度なクッション性も、衝撃を吸収するのに必要です。また、合った靴だからといっていつまでも同じ靴を履き続けるのも好ましくありません。クッション性が低下したりサポート機能が低下してしまうことになります。靴底の溝が浅くなってきている場合も交換のサインですので、定期的に履き替えるようにしましょう。
まとめ
予防策を日常的に実践することで、膝蓋軟骨軟化症のリスクを大幅に減らすことができます。ただし、個人の体質や状況によって最適な方法は異なります。痛みがいつまでもひかなかったり、不安な点がある場合には必ず専門家に相談するようにしましょう。