ほてり・発汗・イライラ・不眠といった次々と現れるつらい更年期の症状に、一人で耐えている方もいるのではないでしょうか。
つらい更年期症状に悩む女性には、ホルモン補充療法(HRT)という有効な治療選択肢があります。一方で、ホルモンと聞くと、副作用などが怖いというイメージをお持ちの方もいるかもしれません。
この記事では、ホルモン補充療法のメリット・副作用・費用などの正しい知識について解説します。
目次
ホルモン補充療法(HRT)とは?
ホルモン補充療法(HRT)とは、更年期に急激に減少してしまう女性ホルモン(エストロゲン)を、お薬で少量補う治療法です。女性ホルモンの補充により、ほてりや気分の落ち込みといった不快な症状を和らげるだけでなく、更年期以降にリスクが高まる病気(骨粗しょう症など)を予防する効果も期待できます。
お薬には、飲み薬・貼り薬・塗り薬の3つのタイプがあり、ご自身の体質・ライフスタイル・希望などを考慮して、医師と一緒に最適なものを選びます。ホルモン補充療法は、単に症状を抑える対症療法とは異なり、不調の根本的な原因であるホルモン不足に直接アプローチする根本的な治療法と言えます。
出典:日本女性医学会|ホルモン補充療法を考えている方へ「ホルモン補充療法の正しい理解をするために~ホルモン補充療法ガイドラインより」
ホルモン補充療法の具体的なメリット
女性ホルモン(エストロゲン)は、月経や妊娠だけでなく、女性の全身の健康を守るために働いています。そのため、ホルモン補充療法でエストロゲンを補うことには、つらい症状の改善はもちろん、将来の病気予防まで、多くのメリットが期待できます。
ホルモン補充療法の具体的なメリットは、以下のとおりです。
- 更年期障害(ほてり・のぼせ・発汗、動悸、イライラ、不眠など)を緩和する
- 骨密度を増加させる
- 脂質代謝や糖代謝などへ良い影響を与える
- 血管のしなやかさを保つ
- 更年期の抑うつ気分を改善する
- 皮膚のコラーゲンを増やし肌の潤いを保つ
- 大腸がんのリスクを低下させる
ホルモン補充療法は目の前の不調を和らげるだけでなく、更年期という変化の時期をより快適に、そして前向きに過ごすための治療と言えるでしょう。
出典:女性の健康とメノポーズ協会|ホルモン補充療法(HRT)
知っておきたいホルモン補充療法の副作用とリスク
ホルモン補充療法を始める上で、副作用やリスクについて正しく理解しておくことは非常に重要です。
主な副作用としては、治療開始初期に不正出血・乳房の張りや痛み・吐き気・腹部のハリ・おりものといった症状がみられることがあります。体がホルモンの変化に慣れる過程で起こることが多く、個人差はありますが、治療を続けるうちに自然に軽快していくのが一般的です。
重大なリスクとしては、血管に血の塊が詰まる血栓症が知られています。しかし、後述する貼り薬や塗り薬を使うことでリスクを下げることが可能です。
ホルモン補充療法による乳がんリスクの上昇は、アルコール摂取・喫煙・肥満といった生活習慣と同等か、それ以下であること、子宮のある人が併用する黄体ホルモン製剤の種類によってリスクが異なることも明らかになっています。
もちろん、乳がんや血栓症の既往歴があるなど、ホルモン補充療法を受けられない方もいます。しかし、定期的な婦人科検診や乳がん検診で健康状態をチェックしながら治療すれば、リスクを適切に管理し、安全に治療し続けることが可能です。
出典:日本女性医学会|ホルモン補充療法を考えている方へ「ホルモン補充療法の正しい理解をするために~ホルモン補充療法ガイドラインより」
出典:日本女性医学会|正しい知識で選ぶ!更年期を健やかに過ごす治療法(更年期の治療法)
ホルモン補充療法のお薬の種類と費用の目安
ここでは、ホルモン補充療法に使われるお薬の種類と費用の目安について、解説します。
ホルモン補充療法のお薬の種類
ホルモン補充療法で使うエストロゲン製剤には、大きく分けて3つのタイプがあります。
- 飲み薬(経口剤):従来からあり認知度が高い
- 貼り薬(パッチ剤):お腹や腰などに貼るシールタイプのお薬
- 塗り薬(ジェル剤):腕などに塗るジェルタイプのお薬
貼り薬や塗り薬は、皮膚から吸収された成分が直接血液中に入るため、肝臓への負担が少なく、血栓症のリスクが飲み薬に比べて低いとされており、近年よく選ばれるようになりました。ただし、人によっては皮膚のかゆみが出たり、汗でパッチが剥がれてしまったりすることもあります。
また、子宮がある方は、子宮体がんを予防するために黄体ホルモンという別のホルモン剤を併用します。さらに、パッチ剤の場合、頻繁に剥がれて投与間隔が不安定になると、不正出血が増えてしまうといった心配をする必要があるかもしれません。
どの方法が最適かは個人差が大きいため、実際に使用してみて効果や副作用を確認しながら調整していくことが大切です。
ホルモン補充療法の費用の目安
ホルモンの減少による更年期症状が、日常生活に支障をきたしていると医師が判断した場合は、健康保険が適用されます。費用はお薬の種類や処方日数によって異なりますが、保険適用(3割負担)の場合、1か月あたり1,000円~2,500円程度が一般的な目安です。定期的な診察や検査の費用は別途必要になります。
出典:日本女性医学会|ホルモン補充療法を考えている方へ「ホルモン補充療法の正しい理解をするために~ホルモン補充療法ガイドラインより」
まとめ
ホルモン補充療法(HRT)は、専門医の適切な診断と管理のもとで行えば、つらい更年期の時期を快適に乗り越えるために有効かつ安全な治療法です。
メディアの情報をうのみにせず、ご自身にとってのメリットとリスクを正しく理解し、医師と十分に話し合って治療法を決めましょう。「更年期だから仕方ない」と一人で我慢せず、婦人科の専門医に相談し、ホルモン補充療法が治療の選択肢になるか、話を聞いてみてはいかがでしょうか。
