寝不足が血糖値に影響?糖尿病と睡眠の関係をチェック

「しっかり寝ているはずなのに、日中の眠気がとれない」「食事や運動に気を使っているのに、血糖値のコントロールがうまくいかない」40代を過ぎて、そんなお悩みのある方もいるのではないでしょうか。

そういった不調、もしかすると「睡眠の質」が原因かもしれません。糖尿病と睡眠は、実は互いに深く影響し合っています。睡眠不足が血糖値を悪化させ、逆に高血糖が睡眠の質を低下させるという「負のループ」に陥ることも少なくありません。

この記事では、糖尿病と睡眠の悪循環のメカニズム、そして特に注意すべき「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」との関連について、分かりやすく解説します。

「睡眠不足」が血糖値を悪化させる理由

睡眠不足が血糖値に悪影響を及ぼす理由を知っていますか。近年の研究では、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の効きが悪くなる状態(インスリン抵抗性)が、ごくわずかな睡眠不足でも引き起こされることがわかっています。

健康な人でも、睡眠時間を一晩8時間から4時間に短縮するだけで、インスリン抵抗性が惹起されるという報告があります。また、同様の報告があるのが、睡眠時間を2週間、1日8.5時間から5.5時間に減らした場合です。青少年についても同じで、特に、思春期前の10~13歳では、夜型の生活と高い空腹時血糖は体重とは無関係に相関しています。

睡眠障害が糖代謝を悪化させるメカニズムは、主に以下の5つが考えられています。

  • 体が常に「興奮モード」になる(交感神経系の過剰な活動)
  • 血糖値を上げる働きを持つホルモン(コルチゾールや成長ホルモン)が増加する
  • 体が軽い炎症状態になる
  • 体がサビつき、細胞が傷ついても十分に修復されない(酸化ストレス)
  • 体内時計が狂う(時計遺伝子の同期不全)

さらに、睡眠不足は食欲にも影響します。食欲を抑えるレプチンというホルモンが減少し、逆に食欲を高めるグレリンが増加するため、食事量が増えやすくなります。実際に、睡眠時間が短い人や長い人で報告されているのは、野菜や果物の摂取が少なく、高脂肪食やファーストフードの摂取が増える傾向です。

出典:慶應義塾大学保健管理センター糖|代謝における睡眠の重要性

「糖尿病」が睡眠の質を低下させる理由

一方で、糖尿病自体も睡眠の質を低下させる原因となります。2015年に大阪市立大学の研究グループが2型糖尿病患者63人を対象に行った研究では、血糖コントロールの状態と睡眠の質が分析されました。その結果、血糖コントロールの指標であるHbA1cが悪化するほど、深い睡眠(脳を休める徐波睡眠)が十分にとれなくなり、睡眠の質が低下していることが確認されました。つまり、糖尿病が睡眠の質を下げ、その睡眠不足がさらに血糖値を悪化させるという悪循環に陥りやすいのです。

出典:日本肥満症予防協会|血糖コントロールを改善すれば睡眠の質も改善 睡眠障害は治療できる
Association between poor glycemic control, impaired sleep quality, and increased arterial thickening in type 2 diabetic patients

糖尿病患者に多い「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」

糖尿病と睡眠を語る上で、注意が必要なのが睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。糖尿病患者さんには、SASを合併しているケースが非常に多く見られます。

SASとは

睡眠時無呼吸とは、睡眠中に呼吸が10秒以上停止する状態のことです。1時間あたりに5回以上の無呼吸や低呼吸が発生し、熟睡できず日中に異常な眠気を催す状態を睡眠時無呼吸症候群(SAS)と呼びます。

SASには大きく分けて2つのタイプがあります。一つは、空気の通り道である上気道(のどなど)が物理的につぶれてしまう「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」、もう一つは、脳や神経、心臓の疾患が原因で、呼吸をコントロールする脳の働きが停止してしまう「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)」です。また、両方の原因を持つ混合型睡眠時無呼吸症候群もあります。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)

SASの多くは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)だと言われています。OSASでは、呼吸が止まっても体は必死に息をしようとするため、胸やお腹が動く呼吸努力が見られるのが特徴です。OSASは2型糖尿病と非常に強く関連しており、OSASの人はインスリン抵抗性や耐糖能障害(血糖値が下がりにくい状態)を起こしやすいことが一貫して示されています。

OSASが糖代謝を悪化させる原因は、前述した睡眠不足のメカニズムに加え、呼吸停止による「低酸素状態」と「睡眠の断片化(細切れの睡眠)」が、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能を低下させるためだと考えられています。OSASと2型糖尿病は、互いに悪影響を及ぼし合い、双方向の関係にあるのです。

2型糖尿病患者さんがOSASの診断・治療を受けることは、将来の心血管イベントのリスクを減らすためにも極めて重要です。ご家族から以下のような点を指摘されたら、OSASを疑うサインです。

  • いびき
  • 睡眠中の呼吸中断の指摘
  • 睡眠中の窒息感やあえぎ呼吸

また、自身で「日中の過度の眠気」や「不眠」を感じる場合も注意が必要です。

中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)

一方、「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)」は、呼吸中枢からの指令が途絶えるため、胸やお腹の動き(呼吸努力)そのものが見られないのが特徴です。CSASは、心不全や脳血管障害など、心臓や脳の疾患に関連して起こることがあります。自覚症状もOSASとは異なり、「疲労感」や「夜間の息苦しさ(呼吸困難)」などが特徴とされています。

出典:千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学千葉大学病院呼吸器内科|睡眠時無呼吸症候群
出典:The Epidemiology of Sleep and Diabetes
出典:慶應義塾大学保健管理センター|糖代謝における睡眠の重要性
出典:睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン2020|CQ8.OSA診断と自覚他覚症状
出典:睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン2020|CQ9.CSB診断と自覚他覚症状

睡眠の質を高め、悪循環を断ち切るための対策

糖尿病治療においては、血糖コントロールに加えて、睡眠ケアも重要です。日本人を対象とした研究でも、睡眠の質と糖尿病リスクの関係が調査されています。北海道の地方公務員3,570人を対象とした4年間の追跡調査では、睡眠時間そのものよりも、「睡眠不足感」を自覚している人は、そうでない人に比べて糖尿病の発症リスクが5倍にもなることが報告されました。まず、自身の睡眠の質を見直すことが重要です。特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる場合、対策を必ずしましょう。肥満はOSASの大きな原因の一つであるため、減量、食事療法、運動といった生活習慣の改善がSAS対策としても重要です。しかし、いびきや無呼吸、日中の強い眠気がある場合は、セルフケアだけでは限界があります。専門医に相談し、検査を受けることが大切です。SASと診断された場合、「CPAP(シーパップ)療法」という、睡眠中に鼻マスクから空気を送り込み、気道の閉塞を防ぐ効果的な治療法があります。

出典:Short sleep duration and poor sleep quality increase the risk of diabetes in Japanese workers with no family history of diabetes.

まとめ

糖尿病と睡眠障害は密接に関連しており、互いに影響し合う存在です。「たかが睡眠不足」と侮っていると、インスリンの効きが悪い体質を自ら作り出してしまうことになりかねません。血糖コントロールと同時に「睡眠の質」を見直すことが、治療の重要な鍵となります。

ご家族から「いびきがうるさい」「寝ている時に息が止まっている」と指摘されたり、日中に強い眠気を感じたりする場合は、放置しないで、早めに専門医療機関に相談しましょう。