運動で血糖コントロール!無理なくできるエクササイズ紹介

糖尿病治療の基本は、「食事」と「運動」と言われています。しかし、「食事には気をつけているけれど、運動は何を、どれくらいやればいいのか分からない」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

運動は単にカロリーを消費するだけではありません。血糖値を下げる「即効性」と、インスリンが効きやすい体質に変える「持続性」の両方を兼ね備えた、効果を期待できる治療法なのです。

この記事では、なぜ運動が糖尿病に効くのかというメカニズムから、血糖値改善に効果的な「2種類の運動」の組み合わせ、そして安全に行うための注意点までを具体的に解説します。

運動が血糖コントロールに効く理由

運動療法は、2型糖尿病の基本治療の一つとしてとても重要です。1型糖尿病については、血糖コントロールへの直接的な効果について一定の見解は得られていませんが、心血管疾患のリスクを減らしたり、QOL(生活の質)を高めたりといった効果が期待されています。

ここでは、運動が血糖値を下げる理由について、説明します。

運動の短期的な効果|ブドウ糖の直接消費

一つ目は、即効性のある効果です。運動すると、筋肉がエネルギー源として血液中のブドウ糖を直接取り込んで消費するため、血糖値が下がります。特に「食後」に運動するのは、食事によって急激に上がろうとする血糖値(血糖スパイク)を抑えるのに非常に効果的です。

運動の長期的な効果|インスリン抵抗性の改善

二つ目は、体そのものを変える効果です。運動を継続して筋肉がついたり、今の筋肉量を維持したりすることで、基礎代謝が高まります。さらに重要なのが、筋肉における「インスリンの効き」が良くなる(インスリン感受性が改善する)ことです。これにより、血糖値が上がりにくい体へと変化していきます。このほか、心血管疾患のリスクとなる内臓脂肪の減少や、認知機能障害の改善効果なども報告されています。

出典:糖尿病診療ガイドライン2024|4章 運動療法

【実践編】血糖値改善に効果的な「3つの運動」

糖尿病の改善に効果的な運動は、大きく分けて3つあります。基本となるのは、脂肪を燃やす「有酸素運動」と、筋肉を鍛える「レジスタンス運動(筋力トレーニング)」です。この2つを組み合わせることで、より高い効果が期待できます。さらに近年では、転倒予防や心肺機能の向上にも役立つ「バランス運動」の効果も注目されています。

有酸素運動

ウォーキング、速歩、ジョギング、水泳などがこれにあたります。糖質や脂質をエネルギー源として消費し、心肺機能を高める運動です。

  • 頻度と時間:週に計150分以上することが推奨されています。週に3日以上、2日連続で運動しない日が続かないようにするのがポイントです。
  • 強度の目安:「楽である」〜「ややきつい」と感じる程度(自覚的運動強度 RPE 11〜12)が目安です。脈拍で言うと、最大心拍数(220-年齢で推定)の50〜60%程度が良いでしょう。

高齢者や、自律神経障害がある方、降圧薬(β遮断薬)を内服している方は、脈拍数が上がりにくい場合があるため、脈拍だけで強度を決めないよう注意が必要です。

レジスタンス運動(筋力トレーニング)

スクワット、ダンベル体操、腕立て伏せなど、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける運動です。筋肉量を増やし、インスリン抵抗性を改善することで血糖コントロールを助けます。

  • 頻度:連続しない日程で、週に2〜3回行うのが推奨されます。
  • 内容:胸、背中、足など主要な筋肉群を含む5種類以上の運動を、最低1セットしましょう。慣れてきたら徐々に強度やセット数を増やします。ダンベルやマシーンなどで重めの負荷をかけた方が改善効果が高い可能性があります。

レジスタンス運動は有酸素運動に劣らない効果があり、足腰が弱って有酸素運動が難しい高齢者の方にとっても有効な選択肢です。この場合、筋肉の減少(サルコペニア)を防ぐ効果も期待できます。

バランス運動

最近、注目されているのが、ヨガや太極拳といったバランス運動の効果です。ヨガは空腹時血糖値やHbA1cを改善させるだけでなく、筋力と心肺機能も向上させると報告されています。また太極拳も、血糖値とバランス能力を改善すると言われています。まだ研究が限られているので、今後の検討が必要な分野ですが、積極的な導入が期待される運動様式です。

高齢者の方は、レジスタンス運動にバランス運動を組み合わせることで、転倒リスクを軽減できる可能性が示されています。

出典:糖尿病診療ガイドライン2024|4章 運動療法

安全に運動療法をするための注意点

運動は薬と同じで、適切な「量」と「注意」が必要です。特に合併症をお持ちの方は、自己判断で始めず、必ず主治医に相談してください。

主治医への相談が必要な理由

合併症がある状態で無理な運動をすると、病状を悪化させる危険性があるためです。

  • 糖尿病網膜症:進行している場合(前増殖網膜症以上)、激しい有酸素運動やジャンプなどで眼底出血や網膜剥離を起こすリスクがあるため、運動が制限されることがあります。必ず眼科医のチェックを受けましょう。
  • 糖尿病腎症:微量アルブミン尿などがある場合は、個別に運動内容の検討が必要です。
  • 糖尿病神経障害:足の感覚が鈍っていると、靴擦れや怪我に気づかず、足病変が悪化するリスクがあります。

病状によっては、禁止される場合もあります。

主治医への相談が必要な場合

日常生活レベルの軽い運動なら相談なしで始めても問題ないことが多いですが、以下のような場合は運動を始める前にメディカルチェックを受けてください。

  • 普段よりも強度の高い運動を始めようとする場合。
  • 他の生活習慣病があったり、血糖コントロールが悪かったりして心血管疾患のリスクが高い場合。
  • 普段座りっぱなしで生活している人が、中程度以上の運動を始める場合。

該当しなくても、不安なことがある場合には、医師への相談をおすすめします。

出典:糖尿病診療ガイドライン2024|4章 運動療法
出典:2023 年改訂版冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン|第2章 危険因子の評価と治療

まとめ

糖尿病の運動療法は、「有酸素運動」で脂肪を燃やし、「レジスタンス運動」で筋肉をつける、2つの組み合わせが最良の方法です。運動には、食後の血糖値をすぐに下げる効果と、太りにくく血糖値が上がりにくい体を作る長期的な効果の両方があります。

「今より10分多く歩く」「スクワットを10回やる」といった小さなことからで構いません。無理なく、安全に、長く続けることが健康への近道です。