健康診断で「血圧が高め」と指摘され、「塩分やお酒を控えているのになかなか数値が下がらないな」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
血圧が高い原因は、塩分の摂りすぎだけでなく「筋肉量の減少」にあるかもしれません。筋肉は単に身体を動かすだけでなく、血圧調整にも深く関わる重要な臓器です。
この記事では、加齢による筋肉減少がなぜ高血圧を招くのか、医学的なメカニズムを解説します。
目次
40代から始まる「サルコペニア(筋肉減少)」の恐怖
医学的に、加齢に伴い筋肉量が減少することをサルコペニアと呼びます。「まだ自分は若い」と思っていても、2010年の日本人を対象とした研究によれば、男性の筋肉量は40歳頃までわずかに増加した後、減少に転じると報告されています(女性は50歳頃まで横ばい)。つまり、40代はまさに筋肉の曲がり角と言ってもいいでしょう。
では、なぜ筋肉が減ると血圧が上がるのでしょうか。一つの要因は体温調整機能の変化です。筋肉は安静時でも多くの熱を生み出していますが、筋肉量が減ると基礎代謝が落ち、体温が低下しやすくなります。すると体は、脳や心臓など生命維持に重要な臓器の温度を保とうとして、皮膚表面などの末梢血管を収縮させ、熱が逃げるのを防ごうとします。血管がギュッと縮まることで血液の通り道が狭くなり、結果として血圧が上昇し、血管壁への負担が増してしまうのです。
特に注意したいのが、体重は変わらないのに筋肉が減り脂肪が増える「サルコペニア肥満」です。見た目は太っていなくても、体の中では血管への負担が静かに進行しているケースが多いため、40代以降は体重計の数値だけで安心するのは禁物です。
参照:日本サルコペニア・フレイル学会|サルコペニア診療ガイドライン2017年版
参照:J-stage|日本人筋肉量の加齢による特徴
参照:J-stage|サルコペニア肥満
筋肉は「第二の心臓」。ポンプ機能と血管拡張の仕組み
筋肉と血圧の関係を語る上で欠かせないのが、「ポンプ機能」と「血管抵抗」という2つの言葉です。筋肉は、物理的なポンプであるだけでなく、血管を広げる薬のような成分を作り出す体内の化学工場としての役割も持っているのです。
筋肉が「第二の心臓」と言われる理由
心臓は血液を全身に送り出す強力なポンプですが、送り出した血液を回収する力はほとんどありません。特に足先まで届いた血液は、重力に逆らって心臓まで戻る必要があります。この時、ポンプの役割を果たすのが脚の筋肉です。ふくらはぎなどの筋肉が収縮・弛緩を繰り返すことで、血管を圧迫し、血液を上へと押し上げます(ミルキングアクション)。このポンプ機能が、筋肉が「第二の心臓」と呼ばれる理由です。
しかし、デスクワークなどで座りっぱなしの状態が続くと、このポンプ機能が働きません。すると血液が下肢に滞留し、むくみや血栓のリスクになるだけでなく、心臓に戻る血液量が減少し、循環システム全体に過度な負荷がかかることになるのです。
筋肉を使わないと末梢血管抵抗を高める理由
もう一つの大切なメカニズムに血管の「硬さ」と「抵抗」があります。筋肉を使って運動し血流が増加すると、血管の内壁(内皮細胞)から一酸化窒素(NO)という物質が分泌されますが、このNOには、血管を柔らかく広げる作用があります。つまり、運動そのものが降圧薬のような働きをするのです。
逆に、加齢や筋肉量の減少により運動不足となると、このNOの分泌量が減少してしまいます。NOが不足すると血管は収縮したまま硬くなりやすく、血液が流れにくい状態(血管抵抗が高い状態)になります。狭く硬い血管に無理やり血液を流そうとするため、必然的に血圧が高くなってしまうのです。
つまり、筋肉への刺激が減ることは、血管の老化を早めることと同じ意味なのです。血管が硬くもろくなる動脈硬化のリスクを遠ざけるためにも、筋肉という元来の降圧システムを常に稼働させておく必要があります。
参照:日本農芸化学会「化学と生物」|運動機能における一酸化窒素(NO)の役割
近年、注目される「筋肉と血管」の関係
「筋肉量が多い人ほど、高血圧になりにくい」という、この説を裏付ける研究が発表されています。2025年に報告された、ヨーロッパの中高年者872名を対象とした大規模コホート研究(一定期間追跡調査する研究手法)によると、骨格筋量(総量、体重に対する相対量など)は、高血圧の発症と逆相関の関係にあることが示されました。つまり、筋肉量が多ければ高血圧症のリスクは低くなり、筋肉が少なければリスクが高まるということです。この研究では特に女性においてその傾向が顕著でしたが、性別に関わらず、筋肉が循環器の健康を守る重要な因子であることが示唆されています。
これまでの健康管理では脂肪を減らすことばかりが注目されがちでしたが、最新の知見では筋肉を維持することが、血圧管理においても重要視されているのです。
まとめ
筋肉を守ることは、血管を守ることにつながります。塩分制限などの食事療法も大切ですが、加齢とともに弱くなる筋肉を補わなければ、根本的な血管管理にはなりません。自身の筋肉量や血管の状態を正しく知ることから始めましょう。当院では、再生医療の知見に基づいた、細胞レベルからの健康維持や筋力低下へのアプローチも提案しています。将来の健康のために、今できる対策を講じていきましょう。
単に薬で数値を下げる対症療法だけでなく、自身の細胞の修復力を高めることで、血管や筋肉を若々しい状態に保っていくのが人生100年時代の新しい健康戦略です。
監修:医師 寺川雄三(脳神経外科専門医)
