腰やお尻に走る激痛に、「もしかしてヘルニア?」と不安を感じていませんか。働き盛りの世代を襲う腰やお尻の痛みは、決して珍しいものではありません。この記事では、ヘルニアの正しい知識と、保存療法から再生医療まで、治療の選択肢を分かりやすく解説します。
目次
椎間板ヘルニアとは?メカニズムと患者背景
背骨のクッションである椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫して痛みやしびれを引き起こすのが椎間板ヘルニアです。事故などの外傷で突然発症することもあれば、悪い姿勢での動作が引き金となることもあります。
椎間板ヘルニアとは
背骨をつなぎ、クッションの役割を果たしているのが、線維輪(せんいりん)と髄核(ずいかく)でできている椎間板です。椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫することで痛みやしびれなどの症状が出る状態を椎間板ヘルニアと呼びます。事故などの外傷や軽い怪我の繰り返しで突然発症することもあれば、重いものを無理な姿勢で持ち上げた拍子に生じやすくなることもあります。
椎間板ヘルニアの患者背景
男女比はおよそ2〜3:1で、男性に多く見られます。好発年齢は20〜40代です。この年代で多いのは[mf1.1]、椎間板を覆う膜が弱くなっている時期に強い圧力がかかることで、膜の脆い部分や断裂箇所から中身が押し出されやすいためと考えられています。発生部位の80%以上は腰椎の下部(L4/L5、L5/S1という椎骨の間)に集中しますが、50歳を過ぎる[mf2.1]と椎間板の中身が硬くなるため、逆にヘルニアは起こりにくくなると言われています。
椎間板ヘルニアの発症因子[mf3.1]
発症には様々な要因が考えられますが、環境因子やスポーツが発生要因となるかは明らかではありません。
環境因子
重労働者、職業ドライバー、金属・機械業労働者などで発症頻度が高いという報告がある一方、対象群と比較した研究では反対の結果も示されており、明らかな結論は出ていません。また、野球、ゴルフ、テニス、サッカー、レスリング、水泳といったスポーツについても、対象群と比較した研究において、明確に関連するものはなかったとされています。
遺伝因子
一方で、若年性の椎間板ヘルニアに関しては、親から子へ、あるいは兄弟間で同じ傾向が見られるといった家族集積性が高いことが知られています。
参照:社団法人日本整形外科学会|整形外科シリーズ 2「腰椎椎間板ヘルニア」
参照:日本臨床整形外科学会|腰椎椎間板ヘルニア
参照:日本整形外科学会|腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン
椎間板ヘルニアを見逃してはいけない危険な症状
椎間板ヘルニアの代表的な症状は、以下のとおりです。
- 腰や殿部(お尻)の痛み
- 下肢へのしびれや痛みの放散
- 足に力が入りにくい
- 動きにくくなる
重いものを持ったり動いたりすると痛みが強くなるほか、痛みを避けるために背骨が横に曲がる(疼痛性側弯)こともあります。特に注意が必要なのは、神経へのダメージが大きい場合です。神経根の圧迫が強いと脚の麻痺が生じることがあります。さらに、脊髄の下にある神経束の馬尾(ばび)が侵されると、膀胱や腸のコントロールが失われ、失禁などを起こす危険があります。このような排尿障害が見られる場合は、直ちに受診が必要です。
椎間板ヘルニアの保存療法
神経の脱落症状が進行性または重症でない限り、治療の基本は保存療法です。痛みが強い時期には、安静にしつつ、消炎鎮痛剤・ビタミン剤・筋緊張弛緩剤の内服や、硬膜外ブロック、神経根ブロック、コルセットの使用などで痛みをコントロールします。痛みが軽くなってきた場合に行うのが、牽引療法や腹筋の訓練などの運動療法です。激しい運動は制限されますが、歩行や軽い活動は許容範囲内で認められます。
参照:慶應義塾大学病院|病気を知る「腰椎椎間板ヘルニア」
参照:MSDマニュアル|腰椎椎間板ヘルニア
参照:社団法人日本整形外科学会|整形外科シリーズ 2「腰椎椎間板ヘルニア」
外科的手術が必要な場合と再生医療という選択肢
椎間板ヘルニアと診断されても、即手術が必要なケースは限られています。重篤な症状がない場合、手術以外の選択肢も検討可能です。近年は、切らずに組織修復を促す再生医療も新たな選択肢として注目されています。
外科的手術が必要な場合
ヘルニア=即手術ではありません。直ちに手術が必要なのは、排尿・排便障害がある場合(馬尾症候群)や、下肢の麻痺(筋力低下)が急速に進行しているケースです。また、保存療法を3カ月以上続けても痛みが改善せず、日常生活に支障がある場合も手術が検討されます。それ以外の場合は、手術以外の方法を検討する余地があります。手術で飛び出た部分を切除しても、椎間板そのものの変性(老化)は治っていないため、同じ場所や別の場所で再発する可能性がある点には留意が必要です。
椎間板ヘルニアへの再生医療の適用[mf4.1]
近年、新たな選択肢として注目されているのが再生医療です。治療法の一つとして、自分の血液から採取した血小板を濃縮し、患部である椎間板に投与する方法などがあります。また、幹細胞を用いた治療では、幹細胞が放出するサイトカイン(修復物質)が神経の炎症を強力に抑える働きが期待されています。傷ついた椎間板の修復を促し、髄核のクッション機能を回復させることを目指すものであり、対症療法や切除手術とは異なり、組織の修復能力を利用した根本的なアプローチと言えるでしょう。
2024年の研究報告では、腰椎椎間板ヘルニアの方へ多血小板血漿(PRP)を注射したところ、個人差はあるものの半年間で全体的に腰痛が改善していたというデータも示されています。
まとめ
椎間板ヘルニアの発症メカニズムには不明な点もありますが、診断されても必ずしも即手術が必要なわけではありません。多くの場合、保存療法を行い、改善しない場合に手術を検討します。ヘルニアの好発年齢は、仕事や家庭で責任ある立場の忙しい世代と重なっている状況です。痛みを抱えたまま無理して働いていたり、忙しくて治療に通えなかったりという方も多いでしょう。手術や入院を避けたい方にとって、再生医療は症状を改善させる新たな可能性を秘めています。
