疲れが取れにくくなるのはなぜ?加齢による回復力低下との関係

「寝ても疲れが取れない…」40代を過ぎてから、体の回復力の低下を感じている方もいるのではないでしょうか。休日にたっぷり睡眠をとっても体がだるい、若い頃のように無理がきかないといった悩みは、多くの中高年男性が感じている体からのサインです。この取れない疲れは、気のせいでも怠けでもありません。

この記事では、加齢に伴い疲れやすくなる医学的な理由と、細胞レベルから回復力を取り戻すための方法について解説します。

加齢とともに疲れやすくなる理由|細胞レベルでの変化

私たちの体を構成する細胞の中には、「ミトコンドリア」と呼ばれる小器官があります。ミトコンドリアは、食事から取り込んだ糖や脂肪を利用して、ATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる生命活動に必要なエネルギーを作り出す重要な役割を担っています。

一方で、ミトコンドリアはエネルギーを産生する過程において、生体内で消費される酸素の90%以上を利用するとされ、その際に細胞へダメージを与える活性酸素も同時に発生します。若い頃は体内の抗酸化機能によって活性酸素は適切に処理されますが、加齢とともにそのバランスが崩れ、活性酸素がミトコンドリアそのものを傷つけるようになります。

ミトコンドリアの機能が低下すると、細胞内で産生できるエネルギー量も減少します。その結果、体全体のエネルギー不足につながり、「疲れやすい」「十分に休んでも疲れが取れない」といった症状として現れるようになります。

出典:糖尿病 51(4):295∼297, 2008|ミトコンドリアにおける加齢変化と糖代謝

回復力を取り戻すための生活習慣からのアプローチ|対策

加齢による回復力の低下を防ぐためには、毎日の生活習慣を見直し、細胞が本来持つ働きをサポートすることが重要です。

ここでは、「睡眠」「食事」「運動」の3つの観点から、今日から実践できる具体的なアプローチをご紹介します。

質の高い睡眠

疲労回復のためには、睡眠時間だけでなく睡眠の「質」が重要です。加齢とともに深い睡眠(ノンレム睡眠)の割合は減少し、それに伴って疲労回復に欠かせない成長ホルモンの分泌も低下すると考えられています。

深い睡眠へ入りやすくするためには、就寝のおよそ90分前に入浴することが推奨されています。入浴によって一度上昇した深部体温が徐々に下がるタイミングで就寝すると、自然な眠気が生じ、スムーズな入眠につながります。

また、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用はできるだけ控えましょう。画面から発せられるブルーライトは脳を覚醒状態にし、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を妨げるため、睡眠の質が低下する原因となります。

抗酸化とエネルギー代謝を意識した食事

食事では、ミトコンドリアへダメージを与える活性酸素へ対抗するため、抗酸化作用を持つ栄養素を積極的に取り入れることが重要です。ビタミンCを豊富に含む野菜や果物、ポリフェノールを含むお茶などは、日常的に取り入れやすい食品です。

また、豚肉や大豆製品などに多く含まれるビタミンB群は、糖質や脂質を効率よくエネルギーへ変換するために欠かせない栄養素であり、エネルギー代謝を支える役割があります。

さらに、糖質の摂り過ぎにも注意が必要です。血糖値が急激に上下すると強い疲労感を招きやすくなります。また、加齢によって糖質を効率よくエネルギーへ変換する働きも低下するため、食事は腹八分目を意識し、栄養バランスの取れた内容を心がけることが大切です。

ミトコンドリアを増やす適度な運動

ミトコンドリアの機能を維持し、その数を増やすためには、適度な運動が有効とされています。ただし、過度に激しい運動は酸化ストレスを強く生み出し、かえって疲労を増加させる可能性があります。そのため、無理のない負荷で継続することが大切です。

例えば、少し息が弾む程度の早歩き(ウォーキング)を1日20〜30分程度継続することで、骨格筋内のミトコンドリア量が増加し、細胞のエネルギー産生能力の向上が期待されています。

また、下半身の大きな筋肉を動かす軽いスクワットもおすすめです。筋肉を動かすことで血流が改善し、疲労物質の排出を促すことが期待されるほか、日常生活に必要な筋力の維持にも役立ちます。

出典:日本睡眠学会|高齢者の睡眠障害

出典:新潟県立看護大学|活性酸素を消去する抗酸化物質であるお茶類の抗酸化能比較

出典:IRYO Vol.69 No.7|運動と酸化ストレス―活性酸素と抗酸化防御のバランスの重要性―

出典:Biochemical adaptations in muscle. Effects of exercise on mitochondrial oxygen uptake and respiratory enzyme activity in skeletal muscle.

細胞レベルからアプローチする再生医療

生活習慣の改善に加え、近年では細胞そのものへ働きかける再生医療も新たな選択肢として注目されています。栄養ドリンクやサプリメントなどによる一時的な疲労対策とは異なり、加齢によって機能が低下した細胞へ直接アプローチすることを目的とした治療法です。

再生医療とは

再生医療とは、人間が本来持っている細胞や組織の再生能力・治癒能力を活用し、障害された組織や臓器の修復を目指す医療です。これまで十分な治療法が限られていた疾患や外傷に対して、新たな治療の可能性を広げる分野として研究・臨床応用が進められています。

代表的な治療法としては、患者さん自身の体から採取した幹細胞を培養して投与する幹細胞治療や、幹細胞から分泌され、細胞同士の情報伝達に重要な役割を担うエクソソームを利用した治療などがあります。

再生医療については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

再生医療とは?幹細胞治療が効果的な疾患や副作用について解説

再生医療でのアプローチ

慢性的な疲労や加齢による回復力低下に対するアプローチとしても、再生医療は注目されています。再生医療によって傷ついた細胞の修復が促されることで、全身の抗炎症作用や抗酸化作用の向上が期待され、疲労からの回復力につながる可能性があると考えられています。

また現在では、機能が低下した細胞へ健康なミトコンドリアを移植する「ミトコンドリア移植」という新たな治療法の研究も進められています。ミトコンドリアの機能回復によって細胞のエネルギー産生能力を改善することを目指しており、将来的な疲労回復への応用が期待されている研究分野のひとつです。

出典:日本医師会 学術推進会議|第Ⅺ次 学術推進会議 報告書「再生医療の未来について」

出典:徳島大学研究クラスター|【終了】ミトコンドリア移植による加齢性病態、組織損傷、および治療抵抗性腫瘍に対する新規治療法の開発

まとめ

「以前より疲れが取れにくくなった」と感じる背景には、加齢による細胞レベルでの変化が関係している可能性があります。ミトコンドリアの機能低下によって細胞が十分なエネルギーを作れなくなることは、疲れやすさや回復力の低下につながる一因と考えられています。

回復力を維持するためには、質の高い睡眠、抗酸化を意識したバランスの良い食事、適度な運動といった生活習慣の改善が基本となります。また、近年では細胞や組織の修復を目指す再生医療も新たな治療選択肢として研究・臨床応用が進められています。

疲労感が長期間続く場合や、日常生活へ支障を及ぼすような症状がある場合は、自己判断せず、医療機関で原因を確認したうえで、ご自身の状態に適した治療法について相談することが大切です。