歯ぐきの健康が血糖値に影響?糖尿病と口腔ケアの話

「血糖値コントロールのために、食事や運動は頑張っている。でも、まだ十分じゃないのかな」と悩んでいる方、「歯磨き」はしっかりしていますか?

40代を過ぎて健康が気になり始めた方々にとって、糖尿病と歯周病はどちらも身近な問題です。糖尿病と歯周病、無関係に見えて、「双方向の悪循環」という密接な関係があることが分かっています。歯周病の人が糖尿病になりやすいだけでなく、糖尿病の人が歯周病を治療すると血糖値が改善する可能性も指摘されているのです。

この記事では、糖尿病と歯周病の「切っても切れない関係」について解説し、血糖コントロールにも役立つ口腔ケアの重要性をお伝えします。

糖尿病と歯周病:双方向の悪循環とは

糖尿病と歯周病は、互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。具体的に「糖尿病が歯周病を悪化させる」メカニズムと、逆に「歯周病が糖尿病を悪化させる」メカニズムの2つの方向から見ていきましょう。

メカニズム1.糖尿病が歯周病を悪化させる

1型糖尿病の方は健康な方に比べ歯周病の発生率が高く、2型糖尿病の方でもHbA1cが6.5%以上の方は、歯周炎の発症や歯を支える骨(歯槽骨)が溶けるリスクが高まることがわかっています。

主な原因は高血糖そのものですが、具体的には以下のとおりです。

  • 糖を好む細菌の割合が増加する
  • 好中球の遊走能・貪食能・殺菌能などの機能不全が生じる
  • 高血糖で生じる最終糖化産物が歯周組織の重要基質成分コラーゲンやラミニンなどの機能的基質を変化させ、もろくする
  • 高血糖による脱水傾向のため口腔内乾燥が起こりやすくなり、唾液の自浄作用が損なわれ、炎症が起こりやすくなる

歯周病菌が繁殖しやすい環境を作り、感染も抑えられなくなる、というように、高血糖が口の環境と体の防御システムの両方に悪影響を及ぼすのです。

出典:糖尿病治療ガイドライン2024|16章 糖尿病と歯周病

メカニズム2.歯周病が血糖値を悪化させる

逆に、歯周病が糖尿病を悪化させるメカニズムもあります。重度の歯周病を放置すると、血糖コントロール(HbA1c)が悪化する可能性があるのです。ドイツポメラニア地区で行われた2,973名の非糖尿病患者を追跡した研究では、歯周病の重症度とHbA1cの悪化に有意な相関関係が見られました。特に、体内の炎症を示すCRPレベルが高い人で、関連性がより顕著でした。

これは、歯周病が「軽微な慢性炎症性疾患」であるためと考えられています。歯周病によって歯ぐきで発生した炎症性物質(サイトカインなど)が血流に乗って全身を巡り、インスリンの働きを妨げ(インスリン抵抗性)、結果として血糖値を下げる能力(耐糖能)を悪化させると推測されています。

出典:糖尿病治療ガイドライン2024|16章 糖尿病と歯周病
出典:Periodontal Status and A1C Change: SHIP Study

歯周病治療で血糖コントロールが改善する

糖尿病と歯周病の「双方向の悪循環」は、逆に言えば「歯周病を治療すれば、血糖値にも良い影響が期待できる」ことを意味します。実際に、日本糖尿病学会のガイドラインでも、2型糖尿病患者における歯周治療は、血糖コントロールの改善に有効であるとして「推奨グレードA(行うよう強く勧める)」とされています 。

歯周病治療によって歯ぐきの炎症を食い止めると、インスリンの働きを妨害していた炎症性物質が減少、その結果、インスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールが良くなると考えられています。複数の研究を分析した報告(メタアナリシス)では、歯周病治療によってHbA1cが統計学的に有意に0.36%改善したという結果でした。

全ての論文で見解が一致しているわけではありません。しかし、「歯周病治療がHbA1cの改善に有効」という報告は複数あるため、歯周病治療が奏功する患者がいると考えられています。

出典:糖尿病治療ガイドライン2024|16章 糖尿病と歯周病
出典:日本歯周病学会|歯周治療ガイドライン改訂第2版2014

糖尿病患者のための口腔ケア|実践編

糖尿病と歯周病の悪循環を断ち切るために、糖尿病の方(または予備群の方)は具体的に何をすべきでしょうか。

重要なのは「セルフケア」と「プロのケア」を両立させることです。

  • 定期的な歯科検診
  • デンタルフロス・歯間ブラシを活用した毎日の正しい歯磨き
  • バランスの良い食事と適度な運動

糖尿病の方は、歯周病のリスクが高いため、症状がなくても半年に一度は歯科検診を受けることが推奨されます。プロによるクリーニングを受け、疾患の早期発見・早期治療につなげましょう。

フッ素入りの歯磨き粉を使い、丁寧に歯を磨くことは、セルフケアの基本です。特に、歯ブラシだけでは汚れが落ちにくい「歯と歯の間」のケアが大切です。デンタルフロスや歯間ブラシを必ず併用し、歯垢(プラーク)を徹底的に除去しましょう。

バランスの良い食事や適度な運動は、血糖コントロールだけでなく、歯周病の予防にも共通して重要です。

まとめ

糖尿病と歯周病は、互いに悪影響を与え合う「双方向の関係」にあります。内科での血糖コントロールと、歯科での口腔ケアは、どちらか片方だけでは不十分です。「車の両輪」であり、両方を同時に進めることが大切です。「歯ぐきの健康」も血糖コントロールの重要な一環として捉え、今日からデンタルケアを見直してみてはいかがでしょうか。