「最近、足の裏に薄い紙が一枚張り付いているような違和感がある」——働き盛りの40代以降でこんな症状があれば、それは神経からの危険信号かもしれません。ただのしびれと放置していると、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。
この記事では、手足の違和感と糖尿病の関係、そして最新の再生医療による神経修復への希望について、詳しく解説します。
目次
「ただのしびれ」と甘く見てはいけない理由
高血糖状態が長く続くと、全身に張り巡らされた神経(感覚・運動・自律神経)に障害が及びます。感覚神経がダメージを受けると、足先からのしびれや痛み、冷えなどが生じる仕組みになっています。進行すると運動神経にも影響し、筋力が低下して歩きにくくなるケースも少なくありません。
さらに自律神経が侵されると、立ちくらみ・発汗異常・消化不良・下痢や便秘・排尿異常・勃起障害などを引き起こします。心血管系の自律神経に異常が起きると急死するリスクもあるため、注意が必要です。悪化して足先の血流や免疫力が低下すると、細菌感染から壊疽(えそ)を起こす恐れも否定できません。痛みを感じにくくなっているため発見が遅れ、最悪の場合は下肢切断に至ることもあります。
出典:厚生労働省|健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~「糖尿病神経障害」
高血糖が神経を傷つける理由
血液中のブドウ糖が末梢神経のシュワン細胞(刺激を伝える細胞)に入ると、アルドース還元酵素の働きで、ソルビトールという物質に変わります。ソルビトールはさらに果糖へと変化しますが、血糖値が高い状態ではこのソルビトールが過剰に蓄積してしまうのです。その結果、細胞が正常に働けなくなり、深刻な神経障害が引き起こされます。
現在では、アルドース還元酵素の働きを阻害する「アルドース還元酵素阻害剤」が開発され、症状の進行を抑えられるようになりました。食後の血糖値が最も高くなるタイミングで薬の作用を出させるため、アルドース還元酵素阻害剤は、食前30分に服用するのが一般的です。また、こうしたメカニズム以外にも、神経に栄養を送る微細な血管が細くなることや、神経を構成するタンパク質にブドウ糖が結びつくことも、神経障害の原因として指摘されています。
出典:一般社団法人 日本臨床内科医会|わかりやすい病気のはなしシリーズ1「糖尿病性神経障害」
手足のしびれの進行を食い止める血糖管理とセルフケア、神経修復への新たな希望
手足のしびれは、手指の神経が圧迫される手根管症候群など他の病気でも起こり得ます。そのため自己判断せず、感覚や反射の検査、微弱な電気で神経の伝導速度を測る検査などを受けることが大切です。検査結果と自覚症状を照らし合わせ、正しく診断された上で適切な治療へ進みましょう。
治療の基本は血糖管理
糖尿病性神経障害と診断された場合、治療の基本となるのは、食事療法・運動療法・薬物療法の3本柱での血糖管理です。どのような治療を取り入れるにしても、まずは土台となる血糖値のコントロールが欠かせません。日々の血糖管理ができていなければ、神経障害の治療も十分な効果を発揮できないのです。
自覚症状改善のための生活の工夫
日々の辛い症状を和らげるには、セルフケアも有効となります。
- 足のしびれや痛み: 揉んだり温めたりして血行を促すことで症状が軽くなるでしょう。やけどに注意しつつ温め、無理のない範囲で少し痛みを我慢しながら歩くことも効果的です。
- 便秘: 医師の指導のもと、下剤を適切に用いて便通を整えます。
- 排尿障害: 排尿に時間がかかる、朝の尿量が多いといった場合は、前立腺肥大など他の疾患がないか泌尿器科でチェックしてもらいましょう。
- 立ちくらみ: 急に立ち上がらず、いったん上半身を起こす、横を向く、椅子に腰掛けるなどの動作を挟むのがおすすめです。就寝時にやや高めの枕を使うことも有効な手段と言えます。
ただし、これらはあくまで辛さを和らげる対症療法であるため、根本的な解決には主治医と連携した血糖コントロールが不可欠です。
神経修復への新たな希望
これまで、一度ダメージを受けた神経を回復させることは非常に困難だとされてきました。しかし近年、前駆細胞や幹細胞を移植する再生医療が新しい治療法として期待を集めています。
というのも、移植された細胞から豊富なサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)が分泌されることで、神経機能や組織の血流、神経形態の改善が示唆される報告もありますが、現時点では研究段階であり、さらなる検証が必要とされています。実際に2012年には、マウスモデルにおいて改善が報告されています。土台となる神経修復を目指すこの治療法は、今後の医療において新たな選択肢となる可能性が期待されています。
出典:一般社団法人 日本臨床内科医会|わかりやすい病気のはなしシリーズ1「糖尿病性神経障害」
出典:月刊糖尿病2011/3 Vol.3 No.3|糖尿病性神経障害の治療 4再生医療
出典:Transplantation of Neural Crest Like Cells Derived from induced Pluripotent Stem Cells Improves Diabetic Polyneuropathy in Mice.
まとめ
「足の裏の違和感」は、糖尿病による神経障害を知らせる警告かもしれません。放置すれば壊疽や下肢切断といった深刻な事態を招く恐れがあるため、まず、適切な血糖管理に取り組むことが重要です。さらに、現在では幹細胞を用いた再生医療など、失われた神経機能の修復を目指す研究も進められています。気になる症状がある方は、手遅れになる前に早めに医療機関を受診することが推奨されます。
