
ED(勃起不全)は、多くの男性が経験する、とてもデリケートな悩みです。パートナーとの関係を思い、自信を失いながらも、「もう年だから…」と諦めたり、誰にも相談できずに一人で抱え込んだりしている方もいるのではないでしょうか。
加齢によりEDが起こるのは、血管や神経がダメージを受けているためと考えられています。
この記事ではEDの原因を解き明かし、従来の治療方法とは違う失われた機能そのものの自然な改善を目指す新しい選択肢について、解説します。
目次
EDの原因は「血管の老化」と「組織のダメージ」
EDの根本的な原因は、年齢という数字の問題ではありません。加齢によりEDが起こるのは、老化による血管や神経のダメージと考えられています。
勃起のメカニズム
勃起の始まりは性的なことを考えたり、見たり、陰部を刺激したりした場合に、大脳の性中枢が興奮することです。性的興奮が神経を通じ陰茎に届くと、陰茎内部にあるスポンジ状の組織(陰茎海綿体)神経の末端からNO(一酸化窒素)という物質が放出されます。
NOは、陰茎海綿体の血管を広げるスイッチです。スイッチが入ると血管を広げる働きのあるc-GMPという物質が増え、筋肉がゆるみ、そこに一気に血液が流れ込みます。血液でスポンジが満たされると、勃起が起こるのです。
ED治療薬でEDが改善するのは、血管を広げる働きのあるc-GMPが酵素で分解されないようにし、血流をサポートする役割を果たすためです。
出典:陰茎海綿体の解剖と勃起のメカニズム
EDの主な原因
勃起のメカニズムがスムーズに働かなくなる原因には、以下のようなものがあります。
- 加齢
- 糖尿病
- 肥満と運動不足
- 心血管疾患および高血圧
- 喫煙
- テストステロン低下
- 慢性腎臓病と下部尿路症状
- 神経疾患
- 心理的および精神疾患の要素
- 薬剤
- 睡眠時無呼吸症候群
上記の原因により、勃起のメカニズムが完成しないとEDになります。原因を見ると分かるように、単に「年のせい」だけではなく、生活習慣病もEDの大きな原因です。
加齢によりEDが起こるのは、血管や神経が老化でダメージを受けているためと考えられています。
出典:日本性機能学会/日本泌尿器学会|ED診療ガイドライン
出典:日本泌尿器科学会|勃起力(ぼっきりょく)が低下した
従来のED治療と限界
現在、EDに対してなされている治療は、ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)の内服や陰圧式勃起補助具の使用、海綿体注射などです。多くの男性の悩みを解決している一方、限界もあります。
従来のED治療
従来のED治療では、ホスホジエステラーゼ5阻害薬が第一の選択肢です。
ホスホジエステラーゼ5阻害薬
バイアグラ®︎やシアリス®︎に代表される飲み薬はホスホジエステラーゼ5阻害薬と呼ばれ、ED治療の第一の選択肢となっています。
前のセクションで解説した、血管を広げる働きのある物質(c-GMP)がすぐに分解されてしまうのを防ぎ、陰茎の血管を広がりやすくして血流を強力にサポートします。性的な刺激があった時に、自然に近い形で勃起を助けてくれる、有効な治療法です。
陰圧式勃起補助具や海綿体注射
飲み薬が使えない、あるいは薬物療法が無効(約30%)だった場合に検討されるのが、第二の選択肢です。
専用のポンプを使って物理的に血液を集め勃起状態にする陰圧式勃起補助具や、自分で陰茎に直接、血管を広げる薬を注射する海綿体注射などがあります。どちらも有効な方法ですが、陰圧式勃起補助具に保険適用はなく自費購入、海綿体注射は自費診療が必要などの問題もあり、どう治療するかは臨床的に大きな課題になっています。
従来のED治療で効果のない人と限界
従来の治療法は有効ですが、共通する大きな限界があります。共通する大きな限界とは、原因そのものを治す根治療法ではなく、必要な時に効果を発揮させるための対症療法である点です。
薬の服用や注射をやめれば、また元の状態に戻ってしまいます。何より、原因である血管や神経のダメージが深刻な場合には、従来の治療法では十分な効果が得られないケースも少なくないのです。
出典:日本性機能学会/日本泌尿器学会|ED診療ガイドライン
【再生医療の挑戦】幹細胞が血管と組織を修復し、自然な勃起力を取り戻す
従来の治療法が対症療法であるのに対し、より根本的な改善を目指すのが再生医療です。再生医療では、私たちの体にもともと備わっている幹細胞の力を利用して、失われた自然な勃起力を取り戻すことを目指します。
従来の治療と幹細胞治療の比較
幹細胞治療は、従来のED治療とは目的もアプローチも全く異なります。飲み薬と比較すると、違いは明らかです。
ED治療の比較 | 幹細胞治療 | ホスホジエステラーゼ5阻害薬 |
---|---|---|
根治の可能性 | あり(機能回復を目指す) | なし(一時的な効果) |
効果の発現 | さまざま | 即効性あり |
制約 | なし | 服用できない方あり(心臓病など) |
副作用 | 重篤なものは確認されていない | 確認されている(頭痛、ほてりなど) |
治療効果には個人差があります。幹細胞治療の最大の特徴は、機能そのものの回復を目指す根本治療となりうる点です。
出典:J-GLOBAL|幹細胞治療勃起機能障害の研究進展【JST・京大機械翻訳】
幹細胞治療のEDへの効果
幹細胞は、体内に投与されると、傷ついた組織を修復したり、新しい血管を作ったりする様々な成長因子(サイトカイン)を放出します。この働きが、EDの原因に直接アプローチします。
- 血管新生作用:新しく健康な毛細血管の創生を促し、陰茎への血流を根本から改善する。
- 組織修復作用:ダメージを受けた陰茎海綿体の筋肉や神経の修復を助ける。
幹細胞治療では、薬に頼らなくても、性的刺激に対して自然に勃起できる身体の状態を目指しています。実際に、ホスホジエステラーゼ5阻害薬を服用してもEDだった方6名に、幹細胞治療をしたところ、95日以内に5人が朝に勃起するようになり、治療後6か月経過しても維持されていました。また、1名を除く全員が幹細胞治療後に、勃起の頻度・硬度で効果を実感したとも報告されています。
世界で進む臨床研究。幹細胞治療を受けるには
EDに対する幹細胞治療は、まだ新しい治療法ですが、可能性に注目する人は多く、臨床研究が進んでいます。幹細胞そのものだけでなく、幹細胞を培養した際に得られる有効成分(培養上清液)を注入する方法など、アプローチも多様化しているのが現状です。
再生医療による治療は、まず専門医によるカウンセリングから始まります。自分の症状は適応になるのか、どのような効果が期待でき、リスクはないのかなど、プライベートな悩みだからこそ、まずは信頼できるクリニックで、不安や疑問を相談することが第一歩です。
出典:Adrenomedullin Mediates Adipose Tissue-Derived Stem Cell-induced Restoration of Erectile Function in Diabetic Rats
出典:Intracavernous administration of adipose stem cells: a new technique of treating erectile dysfunction in diabetic patient, preliminary report of 6 cases
まとめ
EDは、「年のせい」と諦める悩みではありません。今までの対症療法とは異なり、原因に直接アプローチし、根本的な改善を目指せる時代になっています。身体が本来持つ力を利用して、自然な機能の回復を目指す再生医療(幹細胞治療)は、失われた自信と豊かなパートナーシップを取り戻すための、新しい強力な選択肢となり得ます。
プライベートな悩みだからこそ、一人で抱え込まず、専門知識と経験が豊富なクリニックに安心してご相談ください。勇気を出して踏み出すその一歩が、あなたの未来を大きく変えるかもしれません。