心臓も要注意!糖尿病と心血管リスクをわかりやすく解説

糖尿病は血糖値の問題だけだと思っていませんか?
糖尿病では血糖値管理は重要ですが、本当に恐ろしいのは、高血糖がじわじわと全身の血管を傷つけ、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気を引き起こすことです。なぜ糖尿病が、血糖値だけでなく心臓や血管の問題につながるのでしょうか。

この記事では、糖尿病がどのようにして心臓や血管にダメージを与えるのか、4つの主要なメカニズムと予防法について分かりやすく解説します。

糖尿病が心血管疾患(心臓病・脳卒中)を引き起こす理由

糖尿病で高血糖の状態が慢性的に続くと、全身の血管で動脈硬化が進行します。動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどが蓄積し、プラーク(粥腫)と呼ばれるコブのような塊ができることです。血管が内側から狭くなり、壁自体も硬く、もろく、詰まりやすくなってしまいます。

動脈硬化を引き起こす原因は、高血糖だけではなく、糖尿病特有の複数の要因絡み合っています。

出典:厚生労働省e-ヘルスネット|動脈硬化

原因1.高血糖が血管を「サビつかせる」(酸化ストレス)

まず、血糖値の急上昇(特に食後高血糖)が血管にダメージを与えます。血糖値が急激に上がると、血管の内側(血管内皮)では、過剰な活性酸素が発生してしまいます。この活性酸素が、血管を「サビつかせる」のです。

過剰な活性酸素が発生する状態は、酸化ストレスと呼ばれますが、血管が本来持っている防御機能を壊してしまいます。さらに、血液中の悪玉コレステロール(LDL)もサビつかせ(酸化LDL)、血管の壁に溜まるプラークの種を作り出してしまいます。

出典:MDSマニュアル|アテローム性動脈硬化

原因2.インスリンが効きにくく、血管が「硬くなる」

第二に、糖尿病(特に2型)の原因であるインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い状態)も、高血糖とは別のメカニズムで血管に悪影響を与えています。

インスリンには本来、血糖値を下げるだけでなく、血管内皮細胞から一酸化窒素(nitric oxide: NO)を産生させ、動脈硬化を抑制する働きがあります。しかし、インスリン抵抗性の状態になると、この動脈硬化から血管を守る働きが鈍くなってしまいます。その結果、血管が硬く、しなやかさを失った状態(内皮機能不全)に陥り、高血圧や動脈硬化がさらに進みやすくなるのです。

出典:日本薬理学雑誌|血管内皮機能とインスリン抵抗性

原因3.高血糖が血管を「コゲつかせる」(AGEsと慢性炎症)

第三に、高血糖状態が長く続くと、体内のタンパク質がブドウ糖と結びつき、AGEs(Advanced Glycation End-products)(最終糖化産物)という物質に変化します。例えば食パンを焼くと表面が焦げて硬くなることがありますが、AGEsは、このコゲによく似た反応(糖化)でできた物質です。

AGEsは非常に分解されにくく、一度できると長期間蓄積し、血管の壁にこびりつきます。たとえ後から血糖コントロールが良好になっても、過去のコゲが血管を傷つけ続けるのです。具体的には、このAGEsが血管の内側で炎症性サイトカインの産生を増加させ、慢性的な炎症を引き起こし、血管の壁(内皮)を直接損傷させ、動脈硬化(アテローム形成)を強力に促進します。

出典:MDSマニュアル|アテローム性動脈硬化
出典:Glycative Stress Research|Glycative stress and anti-aging 5. Glycative stress and receptors for AGEs as ligands

原因4.プラークの「材料」が増加する(糖尿病特有の脂質異常)

第四に、糖尿病の人の脂質異常は、単なるコレステロール値の問題ではなく、インスリン抵抗性を基盤とした特有の異常が動脈硬化を促進するのが特徴です。インスリン作用が低下したことによって起こる脂質異常は、以下のとおりです。

  • トリグリセライド(TG)を多く含む高LDLコレステロール(VLDL)の増加
  • VLDLの中間代謝物レムナントの増加
  • 超悪玉コレステロール(small dense LDL)の増加

これらの脂質異常は、いずれも動脈硬化の発症・進展を促進します。

出典:日本内科学会雑誌|糖尿病における脂質異常症管理

データで見る糖尿病のリスク

メカニズムが複合的に作用することで、糖尿病の方の心血管リスクは著しく高まります。日本人を対象とした大規模な研究(NIPPON DATA80)では、血糖値が高いグループは、そうでないグループに比べ、心血管疾患による死亡リスクが2倍以上であること報告されています。

また、日本人糖尿病患者の死因を調査した近年の報告でも、最も多い死因は「悪性腫瘍(がん)」ですが、第2位は「心疾患」、第3位は「脳血管障害」と、血管系の合併症が大きな割合を占めている状況です。糖尿病の方の心筋梗塞(冠動脈疾患)では、胸の痛みなどを感じない「無痛性心筋虚血」が多く、自覚症状がないまま診断が遅れがちで、気づいた時には重症化しているケースも少なくありません。糖尿病の方の冠動脈疾患のその他の特徴としては、多枝病変、高度でびまん性の病変、石灰化病変が多いなどがあげられます。つまり、糖尿病の方の動脈硬化は、広範囲に、しつこく、硬く進行しやすい、といった特徴があることが分かります。

出典:Relationship of elevated casual blood glucose level with coronary heart disease, cardiovascular disease and all-cause mortality in a representative sample of the Japanese population. NIPPON DATA80
出典:アンケート調査による日本人糖尿病の死因―2011~2020 年の 10 年間,68,555 名での検討―
出典:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|第3章 動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク評価

心臓を守るための糖尿病管理|予防編

心筋梗塞や脳卒中を防ぐためには、危険因子をまとめて管理することが不可欠です。第一の柱は、もちろん血糖コントロールですが、合併症予防の観点から、HbA1cの目標値は7.0%未満とされています。しかし、心臓を守るためには血糖値だけでは不十分です。

高血圧や脂質異常症は、糖尿病と並んで動脈硬化の強力な危険因子なので、3つを同時に良好な状態に保つことが重要です。食事療法や運動療法といった生活習慣の見直しを土台に、必要に応じて血糖降下薬、降圧薬、脂質異常症治療薬を適切に使用します。また、症状がなくても、定期的に心電図や頸動脈エコーなどの検査を受け、血管の状態をチェックすることも大切です。

出典:日本糖尿病学会|高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について
出典:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|第3章 動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク管理

まとめ

糖尿病を含む生活習慣病の治療の目的は、疾患をコントロールするだけではなく、「血管を守り、心血管疾患を防ぐこと」にあります。高血糖によるサビ(酸化ストレス)・コゲ(AGEs)・インスリン抵抗性による血管の硬化・プラークの材料(脂質異常)といった複合的なリスクを正しく理解しましょう。健康寿命を延ばすには、血糖値・血圧・脂質の3つをバランスよく管理することが大切です。自身の検査値をもう一度確認し、主治医と治療方針を相談しましょう。