
「健康診断で血圧が高めと言われたけれど、自覚症状もないし、まだ若いから大丈夫」と思って、結果を放置していませんか。
高血圧が「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれる理由は、症状のなさにあります。静かに血管を傷つけ、ある日突然、命に関わる病気を引き起こすことがあるのです。
この記事では、健康を守るために知っておきたい高血圧の基本から、今日からすぐに始められる具体的な対策まで、専門家の視点で分かりやすく解説します。
目次
高血圧とは?
血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈を流れる際に、血管の壁にかかる圧力のことです。心臓がポンプのように収縮して血液を送り出すときの最も高い圧力を「収縮期血圧(最高血圧)」、収縮の後に広がって血液を取り込むときの最も低い圧力を「拡張期血圧(最低血圧)」と呼びます。
日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧の基準を以下のように定めています。
収縮期血圧 | かつ/または拡張期血圧 |
---|---|
診察室血圧(医療機関で測定) ≧140mmHg | ≧90mmHg |
家庭血圧(家庭で測定) ≧135mmHg | ≧85mmHg |
血圧が高いと、血管の壁に強い圧力がかかり、血管が傷めつけられて動脈硬化が早く進んでしまいます。血管は全身に行き渡っているので、高血圧の影響は全身に及ぶことになります。
高血圧の症状
高血圧は、ほとんどの場合、自覚症状がありません。そのため、健康診断などで指摘されても放置してしまいがちですが、放置している間にも病状は静かに進行します。症状のないことが、治療を続けることを難しくする一因ともなっています。
ただし、他の疾患が原因で起こる高血圧の場合は、原因疾患による症状が現れることもあります。
出典:日本循環器協会|高血圧
出典:日本高血圧学会のガイドライン|高血圧治療ガイドライン2019
出典:日本臨床内科医会|高血圧
高血圧の2つの種類と原因
高血圧は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。
本態性高血圧
原因となる特定の病気が見当たらない高血圧で、日本人の高血圧の大部分を占めています。塩分の過剰摂取、肥満、過度な飲酒、運動不足、ストレスといった生活習慣や環境的な要因と、遺伝的な体質が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
二次性高血圧
腎臓病や、甲状腺・副腎などのホルモンの異常、睡眠時無呼吸症候群といった、特定の病気が原因で起こる高血圧です。二次性高血圧は、原因となっている病気を治療すると、血圧の改善が期待できます。
出典:厚生労働省「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」|高血圧
放置は危険!高血圧が引き起こす命に関わる病気
高血圧を治療せずに放置すると、全身の動脈硬化が進行し、さまざまな臓器に深刻なダメージを与えます。特に、以下のような命に関わる重大な病気を引き起こすリスクが格段に高まります。
部位 | 疾患 |
---|---|
脳の病気 | 血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血やくも膜下出血。認知症のリスクも高まる。 |
心臓の病気 | 狭心症・心筋梗塞・心不全など |
腎臓の病気 | 腎硬化症や腎不全 |
そのため、高血圧治療の目的は、合併症の予防と悪化をさせないことになります。
今日から始める!血圧を下げるための生活習慣改善
高血圧の予防・改善の基本は、生活習慣を見直すことです。すぐに実践できる具体的な方法をご紹介します。
食事療法
食事では、減塩とカリウムを多く含む食品の摂取がポイントです。
減塩のコツ
高血圧の最大の原因とされるのが、食塩の摂りすぎです。日本高血圧学会では、1日の食塩摂取量を6g未満にすることを推奨しています。以下の食行動を意識してみましょう。
- 漬け物は控える。自家製浅漬けにして、少量を食べる
- 麺類の汁は残す。全部残せば2~3g減塩できる
- 新鮮な食材を使えば、食材の持ち味でおいしい。薄味の調理可能
- 具だくさんのみそ汁にすると、同じ味付けでも減塩できる
- 味付けを確かめてから調味料を使う
- 減塩調味料を上手に利用する
- 香辛料や香味野菜、かんきつ類の酸味を使って調理する
- 外食や加工食品を控える。塩干物にも注意する
できることから、始めてみましょう。
カリウムを多く含む食品(野菜・果物)の摂取
野菜や果物に豊富なカリウムには、腎臓から食塩を排泄しやすくする働きがあります。高血圧の人は積極的に摂りたい成分ですが、腎臓の機能が低下している方はカリウムの摂取制限が必要な場合があります。必ず主治医に相談してください。
運動療法
血圧を下げるためには、速歩・ステップ運動・スロージョギング・ランニング・ウォーキングなどの有酸素運動が効果的です。少しきついと感じるくらいの強度で、1回10分以上、1日合計40分以上を目標に、できれば毎日続けることが理想です。
筋力トレーニングなどを組み合わせると、筋肉量の維持にもつながり、より効果的です。ただし、脳血管病を合併している場合には、事前に医師に相談しましょう。
その他の生活習慣:節酒、禁煙、十分な睡眠、ストレス管理
過度な飲酒は血圧を上昇させます。1日のアルコール量は、男性なら日本酒1合、ビール中瓶1本程度、女性はその半分以下が推奨されています。また、たばこに含まれるニコチンは交感神経を刺激し、血管を収縮させて血圧を一時的に上昇させるため、禁煙は必須です。
その他、十分な睡眠、ストレス管理、体を冷やさないこと、便秘の解消、適切な入浴習慣も血圧管理につながります。
家庭での血圧測定の重要性と、正しい測定方法を解説
毎日の血圧を記録するのは、治療方針を決める上で非常に重要です。以下のポイントを守って正しく測定しましょう。
- 時間: 朝(起床後1時間以内・排尿後・服薬前)と夜(就寝前)の2回
- 機器: 血圧計は正確な測定ができる上腕式がおすすめ
- 姿勢: 椅子に座り、1~2分安静にしてから測定
原則2回測定し、その平均値を記録します。良い値だけを記録するのは避けましょう。
出典:厚生労働省「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」|高血圧
出典:日本高血圧学会のガイドライン|高血圧治療ガイドライン2019
出典:厚生労働省「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」|血圧
生活習慣の改善でも血圧が下がらない場合
生活習慣を改善しても目標の血圧まで下がらない場合は、薬の力を借りる「薬物療法」を検討します。降圧薬を毎日決まった時間に飲むと、血圧が安定して下がり、血管への負担の軽減が可能です。薬の種類はさまざまですが、最も降圧作用が高く、合併している病態に適したものを医師が選択します。
出典:日本高血圧学会のガイドライン|高血圧治療ガイドライン2019
まとめ
高血圧は自覚症状がないからこそ、放置されがちな病気です。しかし、体内では静かに動脈硬化が進行し、将来の深刻な病気につながっています。
健康な未来を守る鍵は、定期的な血圧チェックと早期の対策です。基本となるのは、食事や運動などの生活習慣の改善、そして、必要に応じた薬物療法です。健康診断の結果を見て不安に感じている方、何から始めれば良いか分からない方は、一人で悩まず、ぜひ医師に相談してください。