「少し歩くと足が痛くなり、休むと治る」、そういった症状は、脊柱管狭窄症のサインかもしれません。腰の痛みだけでなく、足のしびれや歩行困難を伴うこの病気は、放置すると生活の質を大きく下げる要因になります。
この記事では、脊柱管狭窄症が起こるメカニズムや、悪化させないための自宅でのセルフケア、標準治療から最新の再生医療まで、今の痛みを解決するための選択肢を分かりやすく解説します。
目次
脊柱管狭窄症とは
脊柱管狭窄症とは、脊髄の神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫を受け、しびれや痛みが出現する疾患です。代表的な症状には、長い距離を続けて歩けなくなることがあげられます。
脊柱管狭窄症のメカニズム
背骨、椎間板、関節、靭帯などで囲まれた脊髄の神経の通り道を脊柱管と呼びますが、脊柱管が老化によって狭くなるのが脊柱管狭窄症です。加齢により背骨が変形したり、椎間板が膨らんだり、あるいは靭帯が厚くなってしまうことで神経が圧迫を受け、神経の血流が低下するために発症します。一般的に、椎間板ヘルニアに比べて中高年に発症することが多いのが特徴です。
脊柱管狭窄症の症状
代表的な症状として、長い距離を続けて歩けないことがあげられます。これは間欠跛行(かんけつはこう)と呼ばれ、歩行と休息を繰り返すことがもっとも特徴的な症状です。太ももや膝から下にしびれや痛みが出現しますが、意外なことに腰痛そのものはあまり強くないケースも少なくありません。
安静にしている時にはほとんど症状はありませんが、立っていたり歩いたりすると痛みやしびれが出るのが典型的なパターンです。進行すると下肢の力が落ちたり、肛門周囲のほてり、尿の出が悪くなる、尿が漏れるなどの排尿障害があらわれることもあり、注意が必要です。
参照:日本整形外科学会|整形外科シリーズ8「腰部脊柱管狭窄症」
悪化させないために!自宅でできるセルフケア
脊柱管狭窄症を悪化させないために、自宅でもできるセルフケアがあります。
やってはいけない姿勢(腰を反らす)と、推奨される姿勢(前屈み)
脊柱管狭窄症には、やってはいけない姿勢と、推奨される姿勢があります。
やってはいけない姿勢:腰を反らす
腰を後ろに反らすと、脊柱管の内径がさらに狭くなり、神経の圧迫が強まるため、症状が悪化しやすくなります。日常生活では、以下のような動作に注意が必要です。
- 高いところの物を取る動作:洗濯物を干す、棚の上の荷物を取るなど
- うつ伏せでの読書やスマホ操作
- 柔らかすぎるマットレスでの就寝:腰が沈み込み、反り腰の状態になるため
- 長時間の立ち仕事:ずっと直立していると腰が反りやすくなるため、片足を台に乗せるなどして骨盤を傾ける工夫が必要
無意識に行ってしまいがちな動作ですが、日常的に避ける意識を持つだけでも、神経への負担を減らし痛みの予防につながります。
推奨される姿勢:前屈み
逆に、前屈みになると、背骨の後方部位(黄色靭帯など)が引き伸ばされ、脊柱管が広がるため、神経への圧迫が緩和されます。楽な姿勢の例として以下のものがあげられます。
- 自転車:ハンドルを持つと自然に前傾姿勢になるため、歩くよりも楽に移動できる
- カート押し:スーパーのカートを押していると長時間歩けるという場合、脊柱管狭窄症の診断ヒントにもなりえる
- 就寝時:横向きになり、少し膝を抱えるように背中を丸めて寝るのがおすすめ
「歩くのは辛いけれど自転車なら大丈夫」というケースは多いため、これらの姿勢をうまく生活に取り入れ、運動不足を防ぐことが大切です。
痛みを逃すストレッチ法
脊柱管狭窄症には、脊柱管を広げ、反り腰を解消するためのストレッチが有効です。
- 膝抱え体操(ガス抜きのポーズ): 仰向けに寝て、両手で両膝を抱え込み、胸の方へゆっくり引き寄せる
- キャット&カウ(四つん這いの運動): 四つん這いになり、息を吐きながら背中を丸めておへそを覗き込む動作をする
- 腸腰筋(股関節の前側)のストレッチ: 股関節の前が硬いと反り腰になりやすいため、片足を前に踏み出してアキレス腱伸ばしのような体勢を取り、後ろ足の付け根を伸ばす
ただし、痛みやしびれが強くなる場合は無理にせず、あくまで気持ちいいと感じる範囲でゆっくりと伸ばしましょう。
日常生活の注意点
体を冷やさないことが重要です。血流が悪くなると神経過敏になり、しびれや痛みが強まるためです。また、痛みが出るまで歩かず、「少し歩いたら座って休憩(前屈みになる)」をこまめに繰り返すと、トータルの移動距離を伸ばせます。
脊柱管狭窄症の治療方法と限界
保存的治療が何もしない場合(自然経過)より効果的かについては、現時点では明確な答えは出せていません。しかし、まずは身体への負担が少ない治療から始めるのが一般的です。
保存的治療方法
リハビリテーションやコルセットの使用に加え、薬物療法が実施されます。脊髄の神経の血行を良くする薬として、血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)が用いられます。痛みが強い場合には、一時的に痛みの伝達を遮断したり炎症を抑えたりする神経ブロック注射も選択肢となるのが、保存的治療方法です。
手術(除圧術・固定術)
歩行障害が進行し、日常生活に支障が出てくる場合には手術で神経の圧迫を除くことを検討します。しかし、手術には限界があります。物理的な圧迫を手術で取り除いても、長期間圧迫されていた神経そのもののダメージが回復せず、しびれだけが残るケースがあることは知っておくべき点です。
参照:日本整形外科学会|腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン
参照:日本整形外科学会|整形外科シリーズ8「腰部脊柱管狭窄症」
神経の炎症・損傷にアプローチする再生医療
手術に抵抗がある方や、保存療法で効果を感じられない方へ、新たな選択肢として再生医療による治療方法があります。再生医療は、自身の細胞の力を使って傷んだ神経組織の修復を目指す治療法です。治療には、患者自身から採取・培養した「脂肪由来間葉系幹細胞」や、その培養液から有効成分を抽出した「上清液(サイトカイン)」を使用します。
主に以下の作用により、症状の改善を図ります。
- 抗炎症作用(痛みの緩和)
- 血管新生作用(しびれの改善)
- 神経保護・修復作用(神経栄養因子の放出)
手術と比較した場合の大きなメリットは、入院不要であることです。また、手術適応外の症状にも使える可能性があり、QOL(生活の質)向上の選択肢となり得ます。大学病院などでも治験での研究が実施されていますが、保険適用外の自由診療になります。
参照:日本整形外科学会|腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン
参照:北海道大学病院|腰部脊柱管狭窄症手術患者を対象とした間葉系幹細胞とバイオマテリアルを用いた再生医療の医師主導治験を開始
まとめ
「歳のせいだから」と諦めず、早期に対策することが将来の歩行能力を守ることにつながります。まず、セルフケアと保存療法で、症状と上手く付き合うという視点を持つことが大切です。それでも改善しない場合や、手術に迷う人の第3の選択肢として再生医療があります。いつまでも自分の足で歩くために、一度専門の医師に相談してみましょう。
