「パーキンソン病=治らない」というのは、もはや一昔前の古いイメージです。パーキンソン病は、医学の進歩により、適切に管理すれば天寿を全うできる病気になりつつあります。しかし、長く付き合う病気だからこそ、長期投薬による薬の効き目の変化や副作用といった悩みが尽きないのも事実です。
この記事では、現在の薬物療法やリハビリに加え、手術療法(DBS)や再生医療といった新たな選択肢について解説します。
目次
そもそもパーキンソン病は完治するのか?
現代医学において、一度失われた神経細胞を元通りにする完治(根治)は、残念ながらまだ難しいのが現実です。しかし、悲観する必要はありません。現時点での治療の目標は、症状をコントロールし、今の生活レベル(QOL)を可能な限り維持することにあります。
実際に、早期から適切な治療を受ければ、運動機能や認知機能を良好に保つことが可能です。統計的にも、パーキンソン病の方の予後(平均寿命)は、一般の方とほとんど変わらないレベルまで改善しています。治らないと諦めるのではなく、「どう上手く付き合っていくか」という視点への転換が、治療の第一歩となります。適切に管理すれば、天寿を全うできるだけでなく、趣味や旅行を楽しむことも十分に可能です。
出典:難病情報センター|パーキンソン病(指定難病6)
出典:日本神経学会ガイドライン|パーキンソン病診療ガイドライン2018「第2章治療総論」
治療の柱1.薬物療法(L-ドパなど)
パーキンソン病治療の基本は、薬物療法です。脳内で不足してしまったドパミンを補うL-ドパを使うと、開始直後には効果を発揮し、症状が嘘のように改善する時期もあります。しかし、服薬期間が長くなると、薬の効果が持続する時間が短くなり、次の服薬前に急に動けなくなる「ウェアリング・オフ現象」が現れることがあります。これは、L-ドパの血中半減期が短いため、服用して2~3時間すると効果が切れてしまうことが理由です。さらに進行すると、神経系が過敏になり、自分の意志とは関係なく手足や体が勝手に動いてしまうジスキネジアという症状に悩まされることも少なくありません。
これらの課題に対し、医師は薬の量や種類を細かく調整しながら治療しますが、複数の薬を組み合わせるコントロールは非常に繊細で、負担となる場合があります。
治療の柱2.運動療法を含めたリハビリテーション
薬物療法や手術療法に加えて、ぜひ取り組んでいただきたいのが運動療法を含めたリハビリテーションです。少しずつ進行する疾患だからこそ、重症度や症状に応じて適切に運動療法に取り組むのは、症状の改善と維持につながります。
ただし、リハビリは、本人が主体となってする治療である点が特徴です。薬のように飲めば効くものではなく、自ら体を動かす必要があるため、「楽しく続けられるか」「モチベーションを維持できるか」といった本人の意欲や、それを支える周囲の環境が効果を大きく左右します。また、痛みや疲労感、うつ症状といった非運動症状がリハビリの邪魔になることもあります。家族や医師と相談しながら、阻害要因を取り除き、無理なく継続できる環境を整えるのが、将来の活動性を守ることになります。
「旅行に行く」「趣味を続ける」など、自分なりの目標を持つのも継続の秘訣です。医師や療法士らと二人三脚で、焦らず自分のペースで取り組んでいきましょう。
出典:日本神経学会ガイドライン|パーキンソン病診療ガイドライン2018「第4章非薬物療法」
出典:The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine|パーキンソン病に対するリハビリテーション
治療の柱3.脳深部刺激療法(DBS)
薬物療法で十分な効果が得られなくなった場合や、ウェアリング・オフ現象やジスキネジアが強く現れる場合には、手術療法である脳深部刺激療法(DBS)が検討されます。
DBSは、脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激によって運動症状を改善する治療法です。適切な患者さんを選択すれば、振戦や動作緩慢などの症状改善が期待でき、薬の使用量を減らせる場合もあります。
ただし外科手術であるため、適応の判断は専門医による慎重な評価が必要です。
治療の柱4.進行抑制と修復を目指す再生医療(幹細胞治療)
標準治療(薬・リハビリ)が、不足分を補ったり体に慣れさせたりする対症療法であるのに対し、細胞レベルでの保護・修復を目指すのが再生医療です。この治療では、自身の脂肪などから培養した幹細胞や、培養上清液(サイトカインを含む液)を体内に投与します。これらの成分が、脳内の神経変性の原因となる炎症を抑えたり、神経栄養因子を放出したりすることで、残っているドパミン神経細胞を保護し、病気の進行そのものを遅らせることが期待されています。
「薬が増えるばかりで不安」「副作用で苦しんでいる」という方にとって、自身の細胞の修復力を利用する治療法は、副作用のリスクが少なく、体への負担も軽いことが多いため、新たな治療選択肢の一つとなるでしょう。
iPS細胞による再生医療の最新動向
再生医療の分野では、近年大きな進展が見られています。2025年2月には、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を用いた再生医療等製品「アムシェプリ®(一般名:ラグネプロセル)」が、日本において条件および期限付き承認を取得しました。
これは、これまで研究段階にあったiPS細胞治療が、実際の臨床現場で使用される可能性が現実的になってきたことを意味します。今後は、一定の条件下で患者さんへの投与が進み、有効性や安全性のさらなる検証が行われていく見込みです。
大学病院で行われる移植治療と、クリニックで提供される幹細胞治療は手法が異なりますが、いずれも神経細胞の保護・補完を目指す再生医療として、今後の発展が期待されています。
出典:京都大学iPS細胞研究所CiRA|パーキンソン病の治療を目指して
まとめ
パーキンソン病の治療は、薬物療法が基本です。しかし、今の時代、薬物療法をベースにリハビリで身体機能を維持、必要に応じて再生医療を取り入れるといった組み合わせ治療こそが、自分らしく生き抜くための新しい戦略と言えるでしょう。
進行への不安を一人で抱え込まず、主治医と相談しながら、新しい治療選択肢にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
